色々な文かもしれない

□※とわにつづくゆめ
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この世界も随分巡った。と思う。
わたしに出来なかった事は出来るようになったし、理想も手に入れた。
こちらの世界にももとの世界にももう用は無くなった気がした。

永久に続く
(とわにつづくゆめ)

また一通り世界を巡った後、たまたま入ったベットから此処に来た。
何時ものように、ごく自然に。
歩みの先には黒くて優しい影。
「せんせ」
「やあ、窓付きサン」
焦点の合わさっていない目はそれでも穏やかに私の存在を見据えていた。

静かになった宇宙船に再び音が戻り、音楽が脳を突き破って来るようだ。
こんな日常がずっと続いていく、そう思わせるような…

「せんせ、」
「ぎゃっ」

広がる赤色ですらいつものやり取りに含まれている物だから。また暫くすれば、先生は笑顔でわたしを迎えてくれるから。
聞こえるのは途切れた音楽、何かしらの機械の音、わたしの耳鳴りとサイレン。
また火星に着いたら、また同じように穴を目指して、また火星さんを慰めてあげに行こう。帰る頃には先生が起きてて、それから

………卵、つくらなきゃ。
それから…それから?





「せんせい、わたし帰らなきゃ」
「あら、どうしてですか?」
わたしに刺されたお尻の辺りを摩りながら紅茶をいれようとした先生に、わたしは慌てて伝えた。
すぐ帰るのに、わたしの分まで紅茶をいれてたら飲む人が居なくなってしまう。

「卵、作るの」
「作る?産むんじゃなくてデスカ?」
きょとん。その言葉がよく似合う顔。

「全部卵に環してこの世界とさよならするのよ」

そう告げた途端、まるでこの世の終わりを見たみたいな顔をした。どうして?
先生、寂しいのかしら。
「大丈夫よ、せんせいにはまた会いに来る」
「嫌です…行かないで下さい…」
「せんせ?」
また、泣きそうな顔してる。始めて会った時も泣いてたっけ。なきむしさんね。
わたしが何を考えてるのか解るみたいに、先生は壊れそうな笑顔を作った。
「私は、あなたとマダ離れたくない」

なぜだか急に鼻の奥がツンとして、目が熱くなってくる。ぽろぽろと零れた熱が服を濡らして冷たくなった。
ぎゅ、と先生に抱きしめられて苦しい。
「どうして泣いているのですか?」
「…泣いてないよ」
「泣くなら、もうこの世界から出ていかなければ良いんです。…ね?」
きゅう、とわたしの頭を抱き寄せて、今度は穏やかな微笑みを見せた。たまに見せるこんな表情が好きだった。

(ごめんね、せんせい、ごめんね…)

「………っ、窓付きサン…」
わたしのじゃない雫がぽろり、
頬に落ちた気がした。










ゆっくりとベットから起き上がる。
めだまうでで逃げた後、ちゃんと扉の部屋で卵も作ってきた。なんだかこうしなければいけない気がした。
「せんせい……」
逃げた時の先生、泣いちゃってたな。
また会った時、謝らなきゃ…

そうだ。もし晴れなら久し振りに散歩でもして、花を摘んで来てあげよう。
ポニ子ちゃんやモノ子ちゃんやモノ江ちゃんにも一つずつあげよう。
死体さんやキュッキュ君、トクト君にもあげなきゃ!
楽しい気分になってきた。きっと、次に皆と会う時のわたしは腕いっぱいの花を抱えて笑ってる。そんなわたしは幸せな筈。
「ベランダから見てみよう!」
ガラス戸を開けると、窓付きの目に
一つの階段が飛び込んできた。

(これって)

(もしかして)

わたしの世界は

どうなるの

幸せなわたし ごめんなさい







愛しい女の子は行ってしまった。
かき抱いた腕の中からするりと消えて行ってしまった。
白い世界、黒い私の前に唯一現れてくれた希望だったのに、色は見えなくなってしまった。きっともうすぐこの世界は終わる。
「窓付きサン……」
彼女の夢の中でしか存在できない私達にとって、もう残された時間は僅かしか無いだろう。たとえ彼女の生きる世界は回り続けようとも、私の世界は彼女自身。
彼女の死は私、そしてこの世界の死。
彼女は…知っているのだろうか。

(でも別に私が生きたい訳じゃない)
「お願いだから生きて下さい…生きて




(ごめんなさい)
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