諒の小さな業績4
□醜い獣と銀河の歌姫に送るセプテット
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彼は、生まれたときから醜かった。
それは性格が、ではなく外見の話である。
顔は焼けただれたかのようになっており、右腕は岩のようにごつごつと赤くはれている。
ともかく。とても褒められるような容姿ではなかった。
幼いころから様々なところで陰口を叩かれた彼は、ついには両親からも見捨てられ、父親方のお爺さんの元へ向かうコトになった。
そのときの少年は、酷くやつれていた。
親にも捨てられた。
同じ子供には嫌われた。
世間からは置き去りにされた。
少年の心は酷く荒んでいて、休まるコトを忘れているようで。
お爺さんの家に預けられたその夜。
彼は家を飛び出した。
ともかく走って、走って走る。
辿り着いた先は――ゴミ置き場だった。
少年は悟る。
自分にお似合いの墓場じゃないか、と。
皮肉気に笑って、一歩ずつ近づいていくと、あるものに目が止まった。
それは真っ黒に塗りつぶされた、とある弦楽器――エレキギター。
「……これも、ゴミ、なのかな」
少年は手にとって確かめてみる。
見た目には壊れているようなところはなく、弦も新品同様である。
「ここにいたか小僧!」
と、気を抜いていたところに突然の怒号。
目を向けると彼の引取り人であるお爺さんがいた。
齢六十を過ぎている彼だが肉体的な衰えが見えない、建築業を営む人物。
鋭い眼光を持った両眼が少年を睨む。
「こんのクソガキ、探すのに手間ぁ取らせやがって……ん? そいつぁギターじゃねぇかよう」
「おじいちゃん、これ、新品だよ?」
「そうみたいだなぁおい。ふぅむ――ぎはは」
豪快に笑って、少年からギターを取り、開いた右腕で少年を肩に担ぐ。
「わ、わわっ!」
「ぎぃはははぁ! そうかそうか、お前はそういう星の人間か!」
「な、何のコトを――」
「トビヤ。約束しろ」
少年ながら、そのときのコトははっきりと覚えていた。
彼が見たお爺さんの顔は一人の男に見せる真摯な表情だったから。
「ワシはお前を大工に仕立て上げるつもりだったが、お前はギタリストっちゅうもんを目指せ。
もしお前がその道を無理とか、諦めてしまったらそっからはワシの言うコトを聞いてもらう。解ったか!」
「――――」
「返事がねぇぞぉ」
それもそのはずだ。
すぐに返せるほど、今の彼に余裕は無い。
少年――トビヤは今の今まで誰かと約束をしたコトがなかったのだから。
誰かに頼られるなんて、一人のヒトとして扱われるなんて、されなかったのだから。
自然と彼の頬をに何かが伝う。
温かくて、何かが詰まっているようなそれは、トビヤが初めて流した泪。
「バッキャーろい! なぁにてめぇ泣いてやがる! 男が泣くときは結婚式と夢が叶ったときと自分の子が生まれたときの三度だけだろうがよ!」
「ぼ、ぼく……嬉しくて、約束なんて、ぐす……したコトがないから」
「――そうかよ」
言葉短くそう言って。
お爺さんは少年に添えた右腕に、そっと、そして優しさのある力を込めた。