東方幻想町物語

□第壱部・学園編
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学校門前。

城門のように作られたそれは見るものに壮大さを感じさせる。

ホント、無駄な金だよな。

校長がコレを造るように命令したらしいけれど。

て言うか誰か止めろよ。明らかに無駄だろ。

あの校長、時代劇好きもほどほどにしろってんだよ。


「秘行」
「うん?」
「なーんかダルそうな顔だよ」
「あのな、鈴仙。ぼくはこの無駄に壮大な門が嫌なんだ」
「そんなコト言ったら校長先生に怒られるよ」
「上級生なんだから守ってよ」
「無理」


ホント、優しいときは優しいのに。温度差が激しいな。


「登校時刻、七時四十五分」


かちゃん、と金属の音。

その音の方を見ていると、門の向こう側から
誰かが出てきた。



「なんだ。委員長か」
「おはよう、咲夜ちゃん」
「おはようございます鈴仙さん。
 それと、秘行。ちゃんと挨拶をしなさい」


きりっとキツイ目線で睨む女の子。

彼女は十六夜咲夜。我が校が誇る優秀な生徒の一人。

日に当たると眩しい銀髪と懐中時計が彼女の目印だ。

そして学生服にナイフを仕込んでいるという良からぬ一面もある。

ぼくの中では怖い人物ベストフォーに入る。


「まったく……それなんだから貴方は成績が下がるのよ」
「いや。ぼくの成績は平行線だ。上がったコトが無いし、下がったコトも無い」
「こっちは言葉が無いわ」


……助けて鈴仙。


「咲夜さんに同じく」


うわー、ぼく、四面楚歌。

どうしようとかうろたえる暇も無く敵しかいない!

って、原因はぼくか。情けない。


「あぁ、秘行くん」
「何さ、委員長」
「これ」


押し付けるように渡されたのは綺麗に磨かれた一つの鍵。

この前、クラスの怪力女が粉々にしたんだけどもう直ったのか。

いやいや、しかし。ここまで綺麗だと本当に鍵職人は凄いな。

きっと彼らだってこだわりあってここまで精巧な仕事を成しているのだろう。

そこには狂言なんてものは無い。


「どうせ来るだろうと思ってたから、入らずにここにいたの」
「荷物置いてくれば良いじゃん」
「挨拶当番」
「ごめん。僕の言葉は狂言でした」
「解ればよろしい」


さ、速く行って開けてきて頂戴。

彼女はそれ以上喋るコトをせずぼくに背を向け、門に寄り添うように立っていた。

予想だが、たぶんぼくと鈴仙からの言葉も聞く気は無いのだろう。

なら邪魔しちゃ悪い。さっさと退場しよう。

ぼくは鈴仙を連れて足早に学校に入っていった。

どこか垢抜けた、妙にさばさばした女の子。

完全で瀟洒な委員長――十六夜咲夜との朝の会話だった。
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