東方幻想町物語
□第壱部・学園編
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ぼくの通う学校、四季織高校はこの町唯一の高校だ。
いつも商店街を通り抜け、ちょっとした坂を上ったところにある。
その商店街、入ってすぐ左側の店。
見るも優雅な、彩色兼備な店がそこにある。
色とりどりの花に囲まれたその店はこの商店街唯一の花屋だ。
名前を《無名の花屋》。
「今日も朝から仲が良いわね」
その花屋の中から現れた女性からの一声だった。
チェック柄の服にロングスカート。右手には見たコトもない花を持っていた。
「あぁ……おはようございます、幽香さん」
「おはようございます、幽香さん!」
「ふふ、おはよう。貴方たちが通ると花たちも生き生きしてくれるわ」
このヒトがこの花屋の店長、風見幽香さん。
自称最強の花屋らしく、昔はブイブイ言わせてたらしい。
さらには内の高校のOBであり、番長だったという記録もある。
証拠と言ってはおこがましいが校長室の机に幽香さんが刻み込んだエンブレムがあるらしい。
……恐ろしい。
「今日も朝早いわね」
「まぁ、にぎやかな時に行くのが嫌いなんですよ。
そんなぼくに鈴仙は合わせてくれてるってところですね」
「私が合わせないと遅刻するもんねー?」
それを言われると痛いところ。
ぼくは鈴仙の言葉に反論はしなかった。
いつも助けてくれるやつに、無粋な言葉は使わない。
「ほら、早く行きなさい。
こんなところで無駄話をしていると他の生徒が来ちゃうわよ?」
![](http://id18.fm-p.jp/data/160/worldwark/pri/14.jpg)
大量のヒヤシンスを抱え込んだ幽香さんが、ぼくに顔をぐっと近づけてそっと囁いた。
ヒヤシンスの匂いなのか、良く解らないけれど頭を揺さぶる官能的な匂い。
大人の女性としての妖艶で美しい顔がぼくの顔のすぐ近くに。
……いや、あの。とても嬉しいんですけど。
やっぱり、ぼくって男なんだなぁ。こうされるとやっぱり嬉しい。
「それじゃあ、行こうか鈴仙」
「……秘行のばか」
なんで馬鹿扱いなのかはわからないけれど。
大人の魅力に何とか耐え切り、ぼくは学校への道を再び歩くのだった。