東方幻想町物語

□第壱部・学園編
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「あら。今日は遅かったね」
「まぁ、ね。ちょっとイヤホンが見つからなかった」
「眠る前にちゃんと決まったところに置かないからよ?」


割烹着姿の女性がぼくにやんわりと注意する。

彼女はぼくの母、八雲藍。

彼女もまた人間ではない。その証拠に後姿は九本の尻尾でふさふさしている。

俗に言う九尾狐と言うジャンルの妖怪だ。

我が母、八雲藍もまた妖怪。


「よっす、ひぃ。とっとと座んな?」
「勇儀姉さんは朝からビール飲んでるね」
「ん? こんなんじゃあたしは酔わないよ」


はは、と男勝りに笑う女性がぼくの隣に座っていた。

彼女は八雲勇儀。ぼくの姉だ。

当然――妖怪ではない。姉さんは鬼と呼ばれる妖怪だ。

とんでもない馬鹿力を秘めており、気に食わないコトはすぐに暴力に訴える。


「はい、どうぞ」
「焼き魚か……いただきます」
「召し上がれ」


そう言って。

ぼくは箸を手に取り、母さんはぼくの前に座る。

右隣には勇儀姉さん。

橙は歯磨きに行っているみたいだった。

しかし……いつも思っているんだけど、母さんはぼくが食事をしているときは必ず凝視してくる。

もう、これでもかってくらい。


「……母さん」
「な、なに?」
「美味しいよ、今日の朝ごはんも」
「良かった……」



そして毎日こう言わないと一日中そわそわしっぱなしなのだ。

朝の食事は一日の動力源、だからか。

そう思うとこの朝ごはんをきちんと平らげようと言う意識も湧く。

自然と、食事が盛り付けられた皿は空になる。


「ご馳走様でした!」
「お粗末様でした。
 秘行、忘れ物は無い?」
「ん、大丈夫。昨日の内に宿題も出来るだけやっといた」
「できるだけぇ?」


いつの間にかビール缶を三本開けていた勇儀姉さんが突っかかる。


「宿題はきちんと仕上げるもんでしょうがぁ!」
「……そりゃそうだけどさぁ」
「はいはい、そこまで。
 秘行は早く学校に行きなさい」
「あ、うん。行って来ます」


かばんを持って玄関に飛び出し、手早く靴を履く。

ようやく、家から出て学校へ向かうコトが出来そうだ。
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