東方幻想町物語
□第壱部・学園編
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よくよく思うのだけれど。
起こしてくれるというのは幸せなんだと思う。
それは今日という日がすごせるというお知らせを運んでくれているのだから。
でも……、
「毎朝毎朝ぼくに飛びつくのは止めてくれないかな、橙」
「ふぇ? なんで?」
とりあえず。ぼやける視界のためにベットの横に置いたメガネを取る。
すっきりした視界に移るのはぼくを真っ直ぐ見つめる美少女。
ぼくの妹である八雲橙は小学六年生で、もう元気いっぱいの女の子だ。
ただし、問題がある。
ヒトではないというコト――彼女は妖怪の類だった。
二股黒猫の化け猫、凶兆の黒猫。
それがぼくの妹の正体。
こんな元気いっぱいな子が凶兆の黒猫だなんておかしいけれど。
「おかーさんが呼んでるよ、ひー兄ちゃん!」
「……ん、解った。着替えてくるって言っておいて」
「解った!」
シュタっとぼくから降りると、俊敏な動きで部屋から出る。
……言ったか。
「ふぅ……毎日が狂言みたいだ……」
これが八雲家の日常であり、このぼくの日常。
八雲秘行の――あまりにも常軌を逸しすぎた日常だった。