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□景色
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僕の中に、あなたがいる。
抱き合うのは…一ヶ月振りという所だろうか。
あなたがイタリアに行った日と戻って来た日なんていちいち覚えてない。
でも、帰ってきたあなたは僕に「ただいま」と言うから
僕も当たり前のように「おかえり」と言っただけだ。
無駄に高いディナーを食べた後、普通の帰り道のようにあなたの部屋に戻る。
こういう展開になっていること事態、どうかしてると自分でも思うのに。
「は…ん、ふ…っ!!」
信じられない自分の声。
砂糖菓子を丸ごと齧ったように甘い。
ディーノのベッドの上でシーツが無残な波を作る中、僕はあなたと向き合うカタチで抱き込まれ身体を貫かれている。
意識が朦朧としているから、これが何度目かなんてもう分からない。
朦朧としてくるぐらいなのだから、お互いの身体はベトベトで、僕のナカはあなたの放った液体でぬめっていて繋がっている場所ももう全然痛みは感じない。
深くあなたを受け入れている僕は、ただもう揺さぶられ激しい快楽の波を乗りこなせずあなたにしがみついているだけで。
その間も忙しいあなたの手は背中をなで上げ、わき腹を擽り、僕の髪を梳いたりしながら際限なく快感を引きずり出そうとしている。
「恭弥…気持ちーか?久しぶりだもんな…」
唇を触れ合わせるだけで僕に囁くあなたの綺麗な顔が近くにありすぎてはっきり見えない。
「ん…、べつ、に…!!」
語尾に残した体の反応で快楽を認めると、更にその奥にある悦楽を得られる事を僕は知ってる。
与えられるばかりは悔しいから、いつもやり返してやろうと思っているのに結局こうして流されてしまう。
見上げれば
綺麗なあなたの顔
汗で張り付いた金の髪
琥珀色の塗れた瞳
寄せられた眉
開けっ放しの唇
どこか必死な
綺麗な恋人の
見慣れた顔
「ねぇ、もうあなたのその顔、見飽きた」
「え、飽きたってお前!!」
「もっと違う景色が見たい」
そういうとあなたはちょっと驚いたように綺麗な目を見開いたのが、至近距離からでも解った。
動きを緩いものに変えて僕の頬を両手で包み、少し顔を遠ざけて僕の目を覗き込んでくる。そしてゆっくりと、笑みをこぼす。
「俺も、そろそろ違う景色がみたかったとこ」
そう言ったが早いか、あなたは自分だけベッドに身を投げ出して寝そべってしまった。
つまり、僕は股を広げて彼の腰に跨っている。
「ちょ…イヤだよ、こんな格好…!」
自分の胸から下、彼の腰までを眺めた。
あまりにも滑稽だ。
僕はいままであなたにこんな姿を晒していたのか。
快楽の中に沈んでいない僕ははっきり理性が戻ってきて。
恥ずかしさで顔が一気に紅潮するのが自分でも解った。
「お前が言い出したんだろ?だから景色を変えてみたんだよ。」
「気が変わっ」
「後に引くなんてお前らしくねーぜ?」
明らかに面白そうに笑っているこの人に心底腹が立つ。
絶対にいつか噛み殺してやろうと誓う。
でも今はそれどころじゃない。
「それにこの方が、オレが起き上がってるよりもっと深く繋がれるぜ。ホラ…」
腰を掴まれ、抱き寄せられるのと同時にあなたに突き上げられた。
有り得ない程、あなたが僕の奥に入り込んできて。
奥底に眠っていた僕の一部を、思い切り強く擦り上げ更にまだ奥の壁にあなたの先端が当たったのが解った。
「あ゛ぁ…っ!く…!!!!!!」
遠のいていた快感を一気に突きつけられ、頭の中がチカチカする。
「すっげぇな。お前のそんな顔初めて見れた」
「うるさいよっ…」
「ちゃんと、動いてみ」
「そんなの、無理…ッ」
「無理じゃねぇよ。望み叶えてやったんだから。」
欲しくてたまらない快感よりも、恥ずかしさのほうが大きくて、ピクリとも動けない。
「…なぁ…シてよ、恭弥…」
そんな。
甘えるような声で、カオで言わないでよ。
ディーノの逞しい腹に手を付いて自分を支え、膝を立て脚を大きく開いて彼の腰に跨り、僕が動くたびにゆらゆら揺れ、先端から蜜を溢す自分の性器を彼の前に晒し喘いでいるなんて。
「あ゛…く、うああああ!!」
なんて、とんでもない格好をしているんだろう。
きっと僕はこれを鑑賞することなんて出来ない。
きっと見ていられない。絶対、目を逸らしてしまう。
新しく見出した自分のいいトコロに彼の硬く大きなモノを擦り付けるように動いているので、いやらしく腰がくねっているのが解るけど、気持ちヨクて止められない。
「たまんねぇ…!すげぇエロいぜ、恭弥…。すっげ、いい眺め…」
あなたの声がいつもより掠れてるのが解る。
夢中になって目を瞑っていた僕は、なんとか薄目であなたのカオを見た。
「ワオ」
なんなの。
あなたのその。
見た事もない綺麗なカオは。
僕を抱いてるあなたのカオが色っぽくて美しい事は知ってるけど。
翻弄されながら下から見上げるのとは全然違う、あなたのカオ。
切羽詰まったように寄せられた眉。
額から汗が流れて、金の髪がはりついている。
潤んで、まるで黄金のように輝いてる瞳。
荒い息を止められず、半開きの唇から覗く赤い舌。
「絶景だね」
「きょ…や!!!!」
気持ちイイの?
あなたの上で僕が動いて、そんなに気持ちイイの?
なんてイヤらしいカオ。
あなたのそのカオを見た途端、快楽とは違うものでカラダが一杯になった。
あなたのカオがもっと見たくて、はっきり自分の意思で上から覗き込んだ。
感じてるあなたのカオに、思わず舌なめずりしそうだよ。
お互い潤んだ瞳で目を合わす。
「ねぇ…、気持ちいいの…?」
休まず動きながらあなたに聞く。
「はぁ…ッ、いいぜ、見りゃ、解んだろ…ッ」
もっといろんな表情のあなたがみたい。
もっといい景色が見たい。
あなたがいつも「顔見せろよ」とかいろんな場所を攻撃してきた理由が分かった。
下肢に力を入れ僕のナカの彼のモノを強く締めつけてみる。
その状態で強く引き抜き、ギリギリのトコロでまた深く腰を落とすと。
繋がっている部分が焼き切れそうな熱を生み、信じられない快感に支配された。
「んあ゛!!!!!く…っ!!!!」
何コレ。
気持ちヨクて、オカシクなりそうだ。
僕も声を抑えきれず、あられもない嬌声を上げてしまったけれど。
「ぅ…あ…ッ!ちょ…、きょうや、ヤバいってそれ…ッ」
あなたの、蕩けるような色っぽい声に耳から溶かされそう。
なんて声出すの。
もっと聞きたい。
熱に支配されそうな快楽の中、あなたのカオが見たくてもう一度覗き込むと片手で顔を覆っていた。
隠さないでよ。
いつも僕に言う癖に。
少し前に乗り出して、あなたの片手をぐいっと引っ張り手を外させる。
すると意外に素直に手を退けて、蜂蜜が蕩け出しそうな瞳で僕を見上げた。
「やべぇって…っもういいだろっ!?」
その言葉の意味を僕は理解してる。
僕も、一緒に昇り詰めたい。
いつもあなたは焦らしたりして意地悪するくせにね
「ん…ッ、は…ぅん…っ、あ゛っ、…っ」
溢れ出てくる声は抑えるだけもう無駄だ。
快楽に犯されるまま、僕は夢中であなたの上で腰を振る。
「ん…ッ、ぁ…、はぁ…恭、弥…!!」
快楽に歪むあなたのカオはこの世のものじゃないくらいに綺麗だった。
あなたの上は、なんて眺めのいい場所なの。
本当に、絶景だね
「ねぇ…っ、もう、ダメそう…!!」
先に耐えられなくなったのは僕だった。
もっとあなたのいろんな表情をみたかったんだけどな
「あぁ、一緒に…な?」
昇り詰める最後の階段を駆け上がる時の記憶はいつも曖昧。
頭の中が真っ白になって身体が痺れていく。
「は、くっ……あ゛ぁ!」
殆ど悲鳴に近い声を上げて溜まりに溜まった熱を勢い良く吐き出し果てた時。
きっと、快楽に耐えかねた彼は咄嗟に起き上がったんだろう。
あなたは僕の身体を抱きしめてくれながら。
「恭弥、恭弥…ッ、愛してる…」
まるで泣きそうな声で僕に囁きながら、僕のナカにあなたの熱をくれた。
そんなあなたにしがみ付きながら。
カラダもココロも不思議に満たされている自分を感じている。
こんな充足感は初めてだよ。
高揚感も、優越感も、全て知った。
僕もだよ、なんて答えてやらないよ。
「そんなの、知ってるよ」
「はは」
「ねぇ」
「ん?」
「あなたって」
「何?」
「・・・なんでもない」
「なんだよ気になんだろ」
「うるさい。もう寝るよ」
「ちぇーなんだよ」
「おやすみ」
「おやすみ」
「あの景色、気に入ったよ」
「俺も」
→遺書