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□愛してるなんて
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「恭弥…キツイか?」

「は・・・っん…、平気…だから、あなたの好きなようにしなよ…」

身体の隅々から引き摺り出されるような快楽は、本当は一体どこからやって来るのだろう。

擦れ合っているのは身体の中心なのに、それは爪先から脳内までを痺れさせる。



僕の中に、あなたがいる。



その感覚はもうとっくに慣れ親しんだものになってしまったけれど、身体のどこからか沸いてくる快感が尽きてしまう事はない。

明日、彼はイタリアへ発つ。

だから今夜は随分早い時間から交じり合った。

僕が上になったり、背後から貫かれたり、それはもう色んな体勢で彼を受け入れて

今は彼の逞しい腕にしっかり抱きこまれ、上から覆い被さられている。

あぁ…やっぱり顔が見える方がいいな。

あなたの潤んだ瞳から、その金の髪から、今にも甘い蜂蜜が零れて来そうだよ。

二人して何度も達したから、繋がっている場所はグショグショで。

無残な波を作っているシーツもすっかり湿っているけど。

それを不快には感じない。

「っ…く、ん…っは」

彼の硬い先端が知り尽くしている僕のポイントを抉り、勝手に高い声が漏れた。

巧みな愛撫で何度も昇り詰めさせられ、おかしくなりそうだ。

僕の中の彼は全く衰える気配がなく、与えられる快楽には終わりが見えない。

物理的に体力は限界を迎え、疲弊した身体は休息を求めているけれど




もういらない、という思いになる時が来ない。

何度身体を繋いでも

何度熱を吐き出しても

果ててしまったその瞬間からまたすぐに欲しくなる。




優しい彼は僕の身体を気遣っているのだろうけど

そんな事気にしないでいいんだよ

だって僕は平気なんだから

手加減なんてされたくない

心配なんてされたくない

僕はそんなに弱くない


だから



欲しいだけ、持っていけばいい。

それを許さないのなら、最初から触れさせたりはしないんだ。




暫く逢えなくなる事が解っている時は特に。

僕の中にまるで自分を溜め込むように抱くあなた。

僕に、自分を刻み込むように何度も何度も体に痕を残すあなた。

そんな事をしたって、逢えない時間が短くなる訳でも、なくなる訳でもないのにね。


なのにどうしてなの


僕もそれを求めてるのは






「ふ、んっ!は…っ、やめ…っ、は…く…っ!」


早く早く、あの一番高いところへ連れて行って。

あぁ、もう、堪らない。

押し寄せてくる大きな塊のような快楽に流される。

あなたにしがみ付く振りをして、わざと爪痕を残した。

淋しがりなあなたのために、僕の痕を残しておいてあげるよ。



だから。




「恭弥、きょうや…、愛してるよ…」




言わないで。




「愛してる、お前を愛してるよ…」




そんな泣きそうな声で。




「恭弥、愛してる…」




言わないでよ。



僕は愛なんて知らない。

知りたくもない。

そんな、得体の知れない大きなモノを理解してしまったら、僕は僕でなくなってしまいそうだ。

あなたが傍にいなくても、僕は淋しくなんかない。

だって、どうせあなたは僕のところに帰ってくるんだから。



だから。



そんな何か美しいものを見るような瞳で僕を見詰めて。

搾り出すような甘い声で。





愛してるなんて言わないでよ。





僕は愛なんか知らない。

知りたくないのに。










僕もだよ…って、言ってしまいそうになるから。



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