Novel

□似た者恋愛気質
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 籠の底を下流に向けて持ち、片手だけで泳ぎながら漂う果実を集めていく。花は傷みそうだったので、籠を持つ手に握る事にした。
 元々身体能力は抜群に高いイーグルである。程なくして籠にいっぱいの果物を回収し、大きな花束を下げて女性のいる川岸へと戻ってきた。
 さすがにずぶ濡れになったイーグルと、その戦利品を見て女性が頭を下げる。もう殆ど涙声だ。
「ありがとうございます!本当に…こんなにびしょ濡れにさせてしまって…」
「いいんですよ。ずっと寝てたせいで鈍ってましたから、身体を動かせて丁度良かった」
「でも…風邪でも引いたら―――」
「大丈夫です、僕頑丈なので。貴女こそ、早く乾かさないと大変ですよ。これも、必要なものだったんでしょう?」
 重みの増した籠を指して言うと、女性は暫く迷った後お礼を言って受け取った。
「…お店の売り物を採りに来ていたんです。一休みしてたらうっかり籠を倒しちゃって…頼まれてたお花まで流しちゃった時はどうしようかと思ってました。本当にありがとうございます」
「どういたしまして。それに、僕のお詫びも兼ねてますから気にしないで」
「…お詫び?」
 きょとんとしている女性に、ぺこりと頭を下げて言う。
「実は貴女が拾いに来る前に、一個食べちゃってたんですよ」
 だからこれで許して欲しい、と頬を掻いていると、女性が声を立てて笑い出した。ふるふると左右に首を振り、可笑しそうにイーグルを見上げた。
「そんな事…。私も採りに来た日は自分で食べますから。それこそ、気にしないで下さい」
 穏やかな笑顔だった。イーグルはセフィーロの人々の笑顔を、好ましいと思う。気候のおかげか晴々としていて気持ちいい。
 女性は改めて礼を言い、おずおずと切り出してきた。
「もしよろしければ、明日お詫びに何かご馳走させて下さい」
 少し考えて、イーグルは笑って首を振った。
「いいえ。貴女が僕に詫びる必要なんてありません」
 その言葉に、僅かに女性は顔を曇らせた。湿った二人の服を、温い風が揺らして抜けていく。
「…どう考えても、無断で人のものを食べてしまった僕の方が怒られますからね。お詫びは、僕にさせて下さい」
 目を丸くした女性に押し切る形で約束を取り付け、イーグルは満足げにその背中を見送った。



 それから数日後のセフィーロ城。
 調査団を連れてやって来たジェオとザズは、上官の姿を遠く窺いながら戸惑っていた。
「なぁ、ジェオ。あの女の子…誰なのかな」
「…さぁ…むしろイーグルは、何をしてるんだ…?」
「…何って―――デート…?」
「―――ジジイか、あいつ…」
 深い溜息を吐きつつ二人が見つめる先には、イーグルといつかの女性。
 城の外苑に面した廊下に並んで腰掛け、世間話でもしているのか時々笑い声も聞こえる。二人の間にはイーグルご愛用のお茶道具と、彼女お手製らしいお茶菓子。どこまでも和やかな光景だ。
「もっとやる事あるだろ、普通!」
「ジェ、ジェオ、俺に当たってもしょうがないだろ!」
 頭を固められてもがくザズ。
 そこへ、近くの扉から出て来たランティスが通りかかった。
「ランティス!丁度良かった、聞きたいんだが…」
「あの娘誰!?」
 問われたランティスはチラリと二人を見て静かに口を開いた。
「―――村の者だ。数日前にイーグルが客として連れて来た。…この時間は毎日ああして茶を飲んでいる」
「ナンパ!?イーグルナンパしてきたのか?」
「つーか、毎日茶ぁ飲むだけかよ…」
「…送り迎えは、しているようだが…」
「だーーー!子供じゃねんだぞ!!もっとこう、ないのかよ!?」
「―――何がだ?」
 ランティス、真顔で聞き返す。
 絶句したジェオの背中を叩きながらザズがしみじみ呟いた。
「ホント…似てる、よな」

 そんなやり取りをちゃっかり聞いてるイーグル。表情には噫にも出さず、お代わりを進めながら言う。
「…明日は、どこかへ出掛けましょうか。お茶も持って」
 親友が奥手だという事は知っているイーグル。一緒にされてはかなわないとばかりに提案するのだが、やっぱりどこか抜けているのだった。
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