Novel

□僕らの上に見える空
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 まばゆい光が辺りに溢れ、やがてサクっと芝を踏む足音が鳴る。
 光が収まった後には、若い3人の女性。各々大きな荷物を抱えて辺りを見渡すと、楽しげに口を開いた。
「皆さん、まだお揃いでないようですわね」
「良かったぁ、間に合って!気合い入れすぎてケーキ焼くのに夢中になってたから、遅れちゃったかと思ったわ」
「ね、海ちゃん、風ちゃん。先に行っててもらってもいいかな?」
 周囲に人がいないと見て取った光が、堪えきれないといった様子で二人を振り返る。
 笑顔で頷いたのを見るや否や、赤い髪を靡かせて城の奥へと駆け出す背中を眺め、二人で囁き合った。
「嬉しそうね、光」
「本当に…。良かったですわ、お元気になられて」
「そうね。ずっと願い続けて来たんだもの。きっと光が一番喜んでるわね」
 同じ人物を思い浮かべながら、二人はゆっくりと広間を目指して歩きはじめる。
 抱えた荷物はお祝いの為。急いで皆と合流して、お茶会の支度をしなければ。
 何故なら今日は、彼の快復を祝う為に集まったのだから。

 海達と別れた光は上空に停船しているNSXを見上げながら、城の廊下を駆けていた。壮大なあの船は、かつて戦艦としてこの『元セフィーロ』へと侵略して来た敵だった。
 『柱』を巡る戦いと、複雑に絡んでいた人々の想い。光自身、『柱』に選ばれ苦しんだ。
 しかし全てが終わってみれば、セフィーロは皆で支え合う世界へと変わり、悲しい願いを以って『柱』にならんとした彼もその命運を変えた。過去にあった悲劇は拭えないが、今のこの世界が光は大好きだった。
 そして今日という、記念すべき日。
 彼が眠ってから、この世界でも、光の住む異世界でもかなりの時間が経った。少女だった3人は成人を間近に控え、容貌もすっかり大人びている。
 目を覚ましたばかりの時、対面した彼は驚きと若干の淋しさを滲ませて笑ったものだ。
 徐々に身体を慣らし、クレフから快癒したとお墨付きが出たのはつい先日の事。光達は異世界に戻っていたので、全快した彼に会うのは今日が初めてだった。

 物思いに耽っていた光の前方に、上背のある人影が映った。
 緑を基調にした制服姿の青年が、のんびりと廊下を歩いている。黄土の髪、スラリとした体躯。
 捜し求めていた相手だと気付いた瞬間、光は足を早めてその背中へ飛び付いた。

「イーグル!!」
「わっ!」
 背後からの衝撃にたたらを踏み、何とか留まった青年が振り返る。
 黄金色の双眸は驚きに丸く開かれているが、その顔も、咄嗟に洩れた声も覚えのある懐かしいものだ。
 涙目になりながら待ち焦がれた人を抱きしめる。
「良かった、元気になって…もう大丈夫なのか?どこも痛くない?」
 感動で胸いっぱいな光とは対照的に、青年は困ったような顔で笑って見せた。
「キミが…ヒカル?」
「え?」
「『魔法騎士』のヒカルでしょう?」
 わざわざ問われるまでもない。何度も話しているし、目覚めた後にも会ったのに、何故今更名前を確かめられるのだろう。
 まさか自分は忘れられてしまったのか。
 先程とは違う涙を浮かべた光をみて、青年は慌てて首を振った。
「そうじゃなくて。僕がキミに会うのはこれが初めてなんですよ」
「初めて…?何を言ってるんだ、イーグル」
 訝しむ光に微笑みかけて、ゆっくりと片手を差し出しつつ彼は名乗った。
「初めまして、ヒカル。僕はオウル、オートザム政府事務次官オウル・ビジョン。イーグルの双子の兄です」
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