ウール

□ティアドロ
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おれの家に入るなり、抱き付いてきた。驚きながらもぎゅっと抱き返したら、その力の強さに気がついて、唇をふさいで、そのまましばらく。
久し振りとかってわけではなくて、ただそういう時期なだけなんだけど、
そういうときは何よりもそれが大切で、それは2人の一番優しい暗黙の了解。
「‥っ、」
「オミくん」
言ってドアに鍵をかけて、なだれるようにベッドに倒れ込んだ。
「おみく ん、」
すごい勢いで、もうかなり熱をもった身体でおれにキスする彼はとてもあやうい。
息をする間も惜しんで、俺の着ていたカッターシャツのボタンを外して、ベルトに手を掛ける。
泣きそうな顔で。
必死で、全身で叫んで、訴えて、伝えようとしてくれる。
それはニヒルな彼の裏側であり暖かな本性であり、見せないのか、見てほしいのか、見せられないのか、一番美しい部分。

だから、

「おみくん、」
「大丈夫、急がなくても」
「オミ君、」
「わかってる、」

おれはそう言う。
寄り掛かってきて肩にスルッと何かが触れる。彼が涙を流すのは、こんなときだけ。

お互い器用ではないから、そのあとはいつもどおり。
ただし彼はいつもより、丁寧で長いキスをしてくれた。

***

オミは不器用な子です。
二人とも世渡り上手ではあるが。
 

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