□予感の朝
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やわらかい木もれ陽


清々しい風


サワサワと囁く梢


時折、聞こえてくる
たどたどしい
ピアノの練習曲


あ、小鳥が合わせて
さえずってる


なんて平和でなんて素敵な秋晴れの休日



ああ、空の下で先生と
逢ってるのが
こんなに嬉しいなんて!


早く卒業したいな
そしたら、今以上に
外で逢えるよね



先生がなにやらごそごそとシャツの胸ポケットから
取り出してる


食後の一服ですか?先生


いつも思うけど
先生が煙草を吸う仕草っていいな、好き


うつ向き加減の横顔


意外と長い睫毛


すんなりした、きれいな指に煙草を挟んで火を点ける

薄いけど、やわらかな唇がふーっと煙りをはきだす


やだな
また見とれちゃった



『ところでさ
 進路決まった?  』


うわ…唐突に…

…でも無いか
もう3年生だものね


「うーん、未だ」


『…おまえ
 もうちょっと焦ろよ
 こっちが焦るわ   』

「進学にしても
 就職にしても一応
 地元希望     」


先生と離れる事なんて
考えられないもの


『…そっか
 大事なことだから
 じっくり、よく考えて』

ねぇ、先生―――
卒業してからも、側にいて良いんだよね…


時々、不安になるの
確な約束が欲しい…



楽しい時間は
瞬く間に過ぎてゆく


公園内を散歩して
近くの商店街を覗いてたら

もう、帰る時間


「先生、また明日ね!」


『勉強しろよ〜』


「え〜?は、は〜い」


本当は
もっと一緒に居たいの
片時も離れたくない


こんな事言うと
困っちゃうよね、先生…


また明日、学校で会える!



屈託の無い笑顔で手を
振る彼女を見送った後


駅のホームに
ひとり残された彼は想う



…今日も
 切り出せなかったな


はは、情けねぇーな、俺
たった一言で済む事なのに

沖田とのタイムリミット
まで後少しか…


彼の足元で
早めに落ちてしまった葉が風に吹かれて
カサリと鳴った
前へ  

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