□月燈幻夜―前編―
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『…悪かったな
 なんか邪魔した
 みてェーで

 これから 
 用事あったのか?』


いつもより
少しだけ落ち着いた感じで銀時が聞く


「夕涼みがてら  
 二人で縁日に…」



なるほど、普段の格好と
違っているのは
そのせいかと銀時は思った


『ふーん だから
 浴衣着てきたんだな
 付き合ってやるよ

 俺が来たせいで
 オジャンになっちまう
 のも、ワリーしな』



(こんな事になるなら…  もっと良いのを 
 着て来るんだった

 そう、このあいだ
 仕立てたあの浴衣

 銀さんに
 見てもらいたかった…)


先程までの凛とした
態度とはうってかわって


モジモジし始めた彼女に
銀時は声をかける



『…何だ 急なもんで
 やっぱ都合
 ワリーの?    』


「ち、違うの!
 あの…もっと良いの
 着てくればなぁと
 思ってたの   」


思いがけない
彼女のいじらしい台詞

銀時はあやめの浴衣姿を
上から下まで
気付かれない様さりげなく見定めた


藍色の地に白い朝顔を
あしらった古典的な柄は
清々しい印象を与え

本来あやめの持つ
聡明な雰囲気を
尚いっそう引き立てていた


『…いいんじゃない
 それも…    』


何故かあやめの目を見ずに銀時は、ぼそっと呟いた


ソッポを向いたその頬が
少しだけ色みがさしているように見えるが


近視の彼女には
それが分からない



「…嘘…誉めてくれるの? 銀さん…嬉しい… 」


あやめは今置かれた状況に戸惑いつつも素直に喜んだ




歓楽街の雑踏を抜け
縁日の神社に向かう


かぶき町とはまた違う色の人混みの中で


銀時の背中を追いかけながらあやめは思った



(どうして
 銀さんの方から私に
 会いにきたのかしら…)


「あの、銀さん… 今日は 新八君と神楽ちゃんは」


前を歩く背中が立ち止まりくるりと振り向いた


『おぅ、よく聞いて
 くれたなァ さっちゃん
 アイツらよォ
 銀さんが昼寝してる隙に 先に縁日にいっちまい
 やがって
 
 しかも、神楽に
 小銭の入った巾着
 もってかれてよォ

 俺ァパチンコで有り金
 全部すっちまって
 スッカラカン…

 あ…やべ…   』


そこまで言うと銀時は
ばつの悪そうに
ポリポリと顔を掻き
あやめの様子をうかがった


静かに彼の話しを聞いて
いた彼女は総てを理解し
くすりと笑った



「ふふふ いいわ銀さん  今から 私が万事屋に
 依頼するわ
 
 これからの
 今日一日の時間を
 私と過ごして下さい

 必要経費はその都度
 報酬は後からまとめて… これで どう?」


惚れた男に
恥をかかせないようにと
彼女なりの精一杯の
助け舟なのだろう


瞬時にホッとしたものの
あやめの気遣いが伝わった銀時もまた応えた



『…おゥ 
 依頼とあっちゃぁ
 仕方がねぇーな

 …とことん付き合うぜ』
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