2009銀誕記念

□秋霖迷子
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昼過ぎから急に天気が崩れだした。今も冷たい雨が降っている。


ごみごみした都会を一掃するかの様に天が落とす雨。

その華奢な銀色の矢を、ただ窓の内側から眺めていた。あるひとつの事を考えながら。


一週間くらい前からだろうか…。午後二時になると現れていたあの子。

今日はその時刻が大分過ぎているのに…来ない。

雨が降ってるから?それとも事故にでもあったのかしら…心配だわ。



「ちょっと、ちょっとォ〜猿飛さん!今日から秋のスイーツフェア開催なんだからネッ
ボーッと窓の外なんか見てないでサァ〜働いて!働いて!!
いったい仕事、何だと思ってんのォォ!」


…………え? ……ああ!今、勤務中だった。

折角なれてきたこのカフェを首になっては大変だわ。

「すみません、店長 ちょっと考え事してて… 今後、気を付けます」




一ヶ月前、このかぶき町にオープンした「くノ一カフェ すぃーときゃんでぃ」

そして、目の前で吠えてるのは店長のかっちゃん。(何故か、そう呼ばないと減給される)

彼は女に生まれてきたら、くノ一になりたかったそうだ。


「あァ!? まァ〜たアンタ、かっちゃんって呼ばなかったわネッ 猿飛さんっ!もう減給よっ!!
それにィ〜いちいち口ごたえしないでサァ〜
ほらァ〜サッサとオーダー取ってきてちょうだい!」

かっちゃんは、ボンレスハムの様な体を振るわせてヒスを起こした。


「…はい すみません」


…ああ、駄目だわ!早く仕事モードに切り換えなきゃ
皆に迷惑をかけてしまう…

気をとりなおして、メニューを小脇に抱える。お冷やが入ったグラスをトレイにのせ、オーダーを取りに行く。

我ながらスピーディー、馴れた手順ね。

と、ポンっと肩を叩く人物が。振り向くと…店長の双子の弟、たっちゃんが立っていた。

彼はこの店のオーナーだ。


「さっちゃん、ドンマイよ!!あんなハムの言う事なんて気にしないで
アノコ、綺麗な女の子には嫉妬しちゃって…意地悪するの」


…アンタも同じくハムみたいよ…とは、流石に言えない。

だって、この店で唯一の理解者。


「オーナー、ありがとうございます」


けっして美しいとは言えないが、優しい笑顔で応える彼。


「いいのよ私、綺麗な子は好きだし さっちゃんの事、大好きよ
さ、仕事仕事!」



街角で割り引き券を配っているせいか、秋色フェアは初日から大盛況。

入り口のドアベルは鳴りっぱなしだ。

空いている席を探すのが困難なくらい埋まっていて、ほぼ満席状態。ただし、ある一角を除いては。

そこは、店の一番奥に位置し「予約席」とプレートが置いてある。


…誰がくるのかしら オーナーの知り合いかしら…



「チリン、チリン」


来客ありとベルが告げる。
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