リクエスト集

□花の回廊〜後編〜
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遠目からでも目立つ、キラキラと輝く銀色の髪と白い着流し



周りの桜色とあいまって、美しい一枚の絵画の様


…眠りの森の…銀さん…?ふふふ…王子というよりは


銀さんは、銀さんね…


そんな事を考えていると…眠りの森の住人が、ふと目を覚まして…


あ…慌ててる?辺りを見渡して…慌てているの?


それとも――――


誰かを探してる………?


…あ…もしかして、私?



貴方の元へ帰ろうと、急いで屋台から引き返す

******


哀愁のある後ろ姿 背中が、いつもより小さく見えた


……そうよね、目覚めたら独りだなんて…寂しすぎる

いくら、たくさんの桜に見守られていても



「……銀さん……」


振り向いた貴方が、安堵の色を見せたように感じたのは、私の思い上がり?


『…なんだ、やっぱ居たのか さっきまでの事は全部、夢か幻と思ってた』


「急にいなくなって、ごめんなさい…お団子買ってきたの それから、これ…」


薔薇みたいに綺麗だったからと、一房の八重桜を手渡そうとした


言われるまま、手を差し出す貴方


だけど、その手には届かなかった


僅かな風に花びらが、脆くほろほろと流れた


「あっ………」


『……………』


―――ほんの数センチ


あと少しのところだったのに…それは叶わなかった


花を失った指先同士が出逢い、触れる――――



『 …冷たい指だな… まるで…鬼になってしまったのかと…』


捨てられた仔犬みたいに、すがるような瞳――――


そんな瞳(め)で見つめないで…


「…鬼? ああ、二人で桜の木の下を歩くと愛する人が鬼になってしまうという…そんな造り話あったわね


…でも …そうじゃなくても… 私は……鬼…よ」


『お前が鬼なら俺も鬼だ』


その言葉を聞いて、貴方の昔の字(あざな)を思い出した  …白夜叉



「…そう…ね さしずめ、私は羅刹(らせつ)ね」


『…羅刹…なるほど そうだな 夜叉と共に遣える、鬼神だな』



僅かな緊張と共に、沈黙が静かに降りてくる


貴方の横に座り、自分の手に目を落とす



…またこの手を血で染めなくてはならないのか…



『…お上からの命が下ったのか?』


うつ向いた私の横顔を見ながら、話す貴方の声が胸に響く



…黙っていても、貴方には悟られてしまうのね…


「…そうよ 近々決行するわ でも何故わかるの?」


『いや…なんとなく…な』


どんなに普通の娘のように振る舞っていても、やはり血生臭い気配は隠せない


『…明日からの事は、今は考えるな この時を、心にしっかり焼き付けとけ』



「ええ…今日、来れて良かったわ 明日から天気が崩れるみたいだもの 満開の花も、見納めね」


『…花散らしの雨か…  なあ、お前は散ってくれるなよ』


「…分からないわ いつも、死と隣合わせだから…  約束は… 出来ない…」


『駄目だ 必ず生きて戻ってこい じゃなきゃどうしてくれようか』


「…夢だったら…今、この時が夢だったら、なんて素敵なことかしら


争いも、憎しみも、…血を流す事もない平和な時間…永遠に、この世界に生き続けるの」


…そうね…貴方と二人で…他には、何もいらないの



「…今度の仕事は、今までより更に危険を伴うの …もしかして、命を落とす可能性もあるわ…


でも…惨めに枯れて腐り堕ちるよりも、美しく散り往く事を選ぶわ


身を挺して誰かを救えたら…散って尚、その人の心に永遠に咲き続ける事が出来るかしら



…ねぇ 銀さん …もし、もしもよ…私が死んだら桜を見る度に思い出してくれる?」


思いきって紡いだ言葉 不思議ね、覚悟を決めたら 貴方の瞳をしっかりと見つめる事が出来る


まるで、思いを返すように貴方も私の瞳を見る


『花は咲いた後のことなんか、ちっとも考えちゃいねぇ 精一杯咲いて、潔く散って往く


だから、桜は格別に美しく見えるのかもしれねぇ


だがよ、お前は桜じゃねぇ


 …お前は、あやめだ… 猿飛あやめだ 元御庭番衆の強い忍だ


お前が敗ける筈がない


ただ…どんなになっても、絶対帰ってこい


かっこ悪かろうが、ボロボロになろうが…必ず、生きて戻ってこい


お前を待ってるヤツがいる その事を忘れんな』
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