リクエスト集

□花の回廊〜前編〜
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『おう 今日は ちゃんと玄関から入ってきたな』


万事屋の呼び鈴を押したら、直ぐに玄関の戸が開いた

いつから待っていたのか 貴方は既に、ブーツを履いてタタキに立っていた


「銀さんが、着物で来いって言うから… いつもみたいに、屋根づたいに跳んでこれなかったわ」


『バッキャーローッ ぴょんぴょん跳ねてきたら、弁当の中身がぐしゃぐしゃになるだろがっ …まあ…いいさ よし、行くか』


スッと敷居を跨いで外にでた貴方の右手が、ガシガシと後ろの髪を掻く ますます自由奔放になる銀色達


迷った時や困った時、天邪鬼な貴方が自身の感情に戸惑った時にする仕草ね


……一体、何を迷っているのかしら


すぐ隣にいるのに、こんなに近くにいるのに貴方の本音が分からない


私が鈍すぎるのかしら…気持ち少々うつ向き加減になりながら、後から続いて出てくる筈の二人を待っていた



『何、ぼーっとしてんだ 行くぞ』


階段を降りかけた貴方が、振り返って肩越しに声をかける


「…あら?二人は?」


『あ?ああ、先に出たぜ』


「場所取りに行ったの?」

『まあ、そんなとこだな』

「…?」


一旦降りかけた足を戻して此方にくる貴方 やはり右手は、銀色に


ほら、よこせ と空いてる方の手を差し出されたので、風呂敷に包まれた重箱を預けた


荷物を持ってくれるなんて…なんだか、いつもの銀さんじゃないみたい


今日は、一人前の女性として扱ってくれるのかしら


白い着流しの後を追って、ゆっくり階段を降りて行く

思い出したように時折、振り返る貴方


その度に、ふわりと揺れる銀色の髪


…一応、気を遣ってくれてるのね


折角だからと思って この機会に、あまり袖を通していなかった桜色の着物を選んでみた


それに合わせた草履が下ろしたてのせいなのか、未だ足に馴染んでいない


おぼつかない足取りで一段一段、降りていく


あと二、三段で地面に着く…というところで、あろうことかバランスが崩れた



「あっ」


『馬鹿、気を付けろ』


声をあげた瞬間、すかさず貴方が抱きとめてくれた


…なんだか、不思議な気分だわ 貴方の広い胸が頬に触れてるなんて


…貴方のその腕が、私の肩を抱いてるなんて



「…ごめんなさい」


『…あ いや…怪我無くて良かったな』


「…ええ」


貴方の腕にすがりついたまま、未だ何も知らない少女のように恥じらってしまった


戸惑いを隠せなかった貴方の口元からは…微かに溜め息が洩れた


…ああ私、いつもドジばっかりで不機嫌にさせてばかりね


やるせない気分が全身を駆け巡る 恥ずかしさで顔が熱を持つ

多分、頬は薔薇色を通り越して―――真っ赤だろう
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