銀誕2008

□其の五
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僕達は万事屋を出て、帰り道を急いだ 未だ秋だというのに、夜になるとさすがに冷え込みがキツイ


ふと、思い出したように夜空を仰ぐ まるで、こぼれ落ちそうな程の満天の星 吐く息は、限りなく透明に近い白


…冬はそこまで来ているんだなあ


隣を歩く姉が今、小さく震えたような気がして声をかけた


「姉上、寒くないですか?」


「そうね…少しだけ でも、大丈夫 …ねぇ新ちゃん、腕組んで行かない?きっと、温かいわよ」


姉の思いがけない突然の提案に、僕は一瞬戸惑った


「ええ〜?う、腕ですか…?」


若干、迷いはあるものの、言われるままに左腕を差し出した


「…はい、姉上…」


「ありがと、新ちゃん」


普段、気丈な姉が珍しく甘えるように腕を絡めてきて、僕の肩にそっと頭をもたれた


フッと微かに、甘いカクテルの様な香りが漂った


…姉上も、少しホロ酔い加減かな…


幼い頃には、良く手を繋いでもらった記憶があるけど、実の姉とこうして
腕を組んで歩くというのは…僕らの年頃だと、中々き恥ずかしいものがある


でも、こんな寒い夜は誰かの温もりを感じていたい
じんわり人肌が染み入って、体も心も温まる


「…あの…姉上 銀さん、途中から心ここに在らずって感じでしたね
なんだか酔い潰れるのも、いつもより早かったみたいだし」


「…そうね やっぱり淋しいんじゃない?猿飛さん、未だ帰ってこないんでしょう」


「…そうみたいですね 銀さんの誕生日には顔を見せると思ったんですけど…僕」


「あんな人でも、そういう事で悩むのかしらね… 意外だわ… 私には、未だ分からない
愛だ、恋だの言っている隙なんかないもの」


「…でも、なんだかちょっぴり羨ましいかもしれない…そんな二人が…」


そう呟いた姉の横顔が、少し淋しそうに見えたのは僕の気のせいだろうか


「…姉上 」


「ふふ…私には新ちゃんがいるから、淋しくないわ」


深い秋の夜 月灯りに照らされた一本道を、おとぎ話しに出てくる姉弟の様に
二人寄り添って帰った
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