銀誕2008

□其の三
2ページ/4ページ

「はい、お茶のお代わり」

そう言って新八が差し出す、俺の湯呑みを改めてジックリと見た


…そういや、湯呑みも…箸も…アイツが使ってたのって来客用だったな…ああ、そうだ…なにもかもが…


アイツ専用の物なんて、何ひとつ無かった…大体にして、アイツは自分のが欲しいなんて―――


ヒトコトも言わなかったから…そのままにしてた


…良く考えると、酷でェ話し…だよな


事実、ほとんど一緒に住んでる様な女に対して…


都合のいい女…そんなつもりじゃあ無かったんだけどよ…なんか、めんどくさいし…


そのうち、追々な…って思ってるうちに… 結果、そうなっちまったんだな


…なんか…俺、やっぱ酷でェ男かな… 駄目な野郎なんかな…


モテねぇー理由って、こんなんかな こんなところが、駄目なんかな…


…ま、今更 別の女に好かれようとも思わねェが



――俺とアイツが、この万事屋で過ごしてきた時間…
アイツと俺とで、一緒に刻んできた時間…


その証しが…目に見える証しが、手に触れる記しが、全く残って無ぇ


あるのは、俺の中に残っている、記憶…と思い出…だけ


この身が覚えてる、凛とした―――あの花の色の記憶



名残惜しいが、口の中に残る甘さを渋い茶で流して、俺は立ち上がった


『あー ジャンプ… 忘れてたなー そうだ、ジャンプ買ってくるわ』


アイツがいない、この空間から逃げ出したくて―――
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ