Wシリーズ
□冬の華
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…パキッ
足元の細く小さな枯れ枝を踏んだ音が、胸騒ぎの心に響く
その僅かな音に、ベンチに掛けている薄手のコート姿の男性が顔をあげた
『…猿飛』
「先生…」
普段、見ることのない真顔
驚きの色を隠せない先生のその表情
手は煙草に火を点ける事を忘れて、そのまま止まっている
私も、これ以上ベンチに近づく事が出来ずにその場所に、とどまってしまった
周りの雑踏も、電車の音も、冬の風の囁きも…総て、耳に入らなくなってしまった
目が眩うほどの、沈黙
『…どうしたの、こっち来て座ったら?』
「あ… はい…」
先生の一言が… その一言が… まるで私にかけられた魔法を解き放すみたいに…
止まってしまった時間が再び動きだす