イベント集

□初詣
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『よォストーカー、朝早えーな』


凛とした立ち姿 少し冷たい印象を受ける綺麗すぎる横顔
…ん?綺麗…?まあ、造形だけは綺麗だよな、うん 造形だけは…な


突然に、俺に声をかけられたコイツは少し驚いた顔をしたが、直ぐにいつものクールな表情に戻り切り返した


「あら、銀サン ごあいさつね 誠に申し訳ございませんが本日、貴方の専属の妖精は臨時休業させていただきます」


『あぁ、良いねぇ 本日と云わずに永遠に休業しちゃってくんない?
ところでさ、お前いつもこんなに早く初詣にくんの?』


なんか…いつもとちょっと調子が狂うのは、普段見ることのない、その白い…白すぎる うなじ のせいだろうか…

少しばかりの動揺を隠すように、とりあえず頭をボリボリ掻いてみて…一応、何か会話らしきものをと…ありきたりの台詞を吐いてみた


普段は私の事なんて関心がないそぶりなのに、今日に限って社交辞令ありなのね…と、コイツは少し毒づきやがったが、やがてとつとつと話し始めた


「毎年…両親がまだ健在だった頃は早朝にお詣りする習慣があったの
父は人混みが苦手だから…いつも、私と母はそれに付き合わされて
その当時は眠くてしょうがなくて父を恨んだりしたけど、今となっては…良い思い出ね」


昔を懐かしむコイツの横顔を静かに見つめながら


『ふーん』


俺はただ、そう応えた


物心ついた時から、俺には家族がない だから、コイツのような思い出もない


お前みたいに、感傷に浸りたくても出来ないんだ …いや、そのような感情も持てないでいるかもしれない


…まあ、今の俺には万事屋という名の家族がいるがな

だが、反対に現在のコイツはどうだ もう家族はなく、懇意にしてるのは元お庭番衆の奴らだけだろう

少なくとも、俺が知る限りでは
…そういえば、友達の話とか聞いた事ねーし まあ、今まで興味無かったしな…ん?…あれ?「今まで」?いやいやいや、「これからも」だっ!!


さっきからひとり百面相をしだした俺 そんな俺にコイツは申し訳なさそうに声をかけた


「銀サン、ごめんなさい…新年早々になんだか詰まらない話なんかして…
それにしても、急にどうしたの? ぷぷっ おかしな銀サン」


いろいろと想いをはせらせられている当人から、笑われた
そんなんじゃ銀サン、ご機嫌斜めになっちゃうよっ


『あぁん?うっせーなっ いいんですゥ〜 朝のお顔の体操ですゥ 
あぁっと、ほれ、人出で混む前に初詣おわらせっから…それと 行くとこあるから、ついてこい』


「…本日は、定休日」


『ああっ?臨時休業じゃねーのかっ いいか、もう一度言うぞ! これが最後のチャンスだ
ついてくるのか、こねェーのか どっちだ?』


「…う…そ …いいの?」


返事を待たずに俺はスタスタ歩き始めた そして、背中でコイツに応えた


『駄目だっつったって、どーせ後からくるだろ』


「…そうね でも、ふふふ 嬉しい!」


『…まあ、アレだ 【新春初売り特別企画第一弾!先着一名様に限り、ニューイヤー銀サンの同伴サービス】だ』


とっさに口から出た支離滅裂な俺の言葉に、コイツは思わず口許がほころんだようだ

後ろで、くすっと微かにやわらかい風が揺れた


「…なんだか前にも聞いた事、あるわね」


…やべ…コイツ… クリスマスの時の台詞、覚えてやがる…

一瞬、んーと天を仰いで体勢を持ち直した そして、改めてコイツの方に向きなおして


『気のせいだ』と、一言


…でも、焦りの色は伝わってしまった…かもしれない
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