□黄昏の教室〜あの日と同じ夕焼け〜
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…初めて先生に気持ちを
受け入れてもらったのも
こんな夕焼け空の日だった


教室の窓いっぱいの
大きな、大きな綺麗な夕陽


…あの時は――――
総てが温かい光りに包まれ輝いているように見えた



後の事なんて
 一切考えもしなかった



ただ―――
先生が好きって気持ちで
胸がいっぱいで………



伝えられずには、いられなかった――――



でも私…
昨日ふられたんだね…



まさか、こんなにも早く
別れが訪れようとは…





「ガラッー」



――誰?
 教室に入ってきたのは…



忘れ物でも取りに来たの?




辺りがうす暗くて…よく
見えない…



「…猿飛 まだ居たの」



窓側の席にいる私の方へ
ゆっくりと歩いてくる人影


少しぶっきらぼうに言う
この声は、…彼だ



「土方君?私、今日 
 日直なんだ
 日誌書いてた
 そっちは…?部活、
 終わったの?   」



「今日は 委員会あって
 いま…終わったとこ」



前の机に、彼が腰掛けた



そして
持ってたペットボトルを
スッと私の頬に
軽くつけた



「あ、冷たっ!」



今買ってきたばかりの…
スポーツドリンク…
細かい水滴がついてる



「飲んだら?

 体中の水分が無くなるぜ そんなに泣くと  」





「……なんで分かるの?」


「いつもより目が赤いから なんとなく    」




「ありがと…優しいね」



「…い、いや…
 別に…気にすんな 」



「…顔、赤い…?」



「夕陽のせいだろっ
 気にすんなっ ったく」



何も聞かずに
ただ側にいてくれる
彼の気遣いに心が緩んだ



ずっと
こらえていたものが
すうっと心の芯から
溢れ出てきてしまった



「…土方君…あんまり…
 優しく…しない…で…」




涙が溢れそうで
顔を上げることが出来ない



でも、とうとうそれは
日誌の上にぽたりと
落ちてしまった




「…猿飛、泣くなよ
 俺… 何て言っていいか 解らねーよ   」



彼は、おずおずと私の頭を優しく撫でてくれた



きっと彼は真っ赤な顔で
必死で慰めの言葉を探しているのだろう



震える指先
伝わる気持ち



何故か、今ここにいるのが彼で良かったと思った…



「ごめ…先生の前では
 泣かなかったのに…」



そう、私…
先生を困らせたくなくて
いつも我慢してた…



「…辛かったんだな 」



温かい指先がふいに離れた


次の瞬間
そっと抱きしめられた



伝わる鼓動



高い体温




そして…先生と違う香り…


「土方君…あ、あの…」



「…ごめん、猿飛
 目の前に泣いてる女が
 いたら、慰めずにはいら れないんだ、男ってぇの は
 例えそれが好きなヤツじ ゃなくても   」



「…う…ん…」



突然でびっくりしたけど、ただ、ただ温かく優しい
沈黙に気持ちを預けた



誰かに思ってもらうのが
こんなに心に染みたのは
いつの日が最後
だったろう…





先生…今は、もう…
前みたいに
抱きしめてくれないの…




たった数分の
出来事だったけど
それはとても長く感じた



そして
その安堵の静けさの
向こう側から現実に
引き戻す音が聴こえてきた




『 コンコン 』


机を叩く音…?


二人して
はっと我にかえる
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