綴
□中庭ピクニック
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「あーっ間違った!」
―――ガコン
虚しい音が彼女の頭の中に響く
(今日はもうお金もってないし…最悪 厄日だわ)
彼女の、銀魂高校3年Z組猿飛あやめの昼休みは、ほとんどこんな凡ミスで始まる
中庭にある芝生の上で膝を抱えながら途方にくれている彼女の姿は
他の生徒の目から見たら、余り珍しくないだろう
多分、いつもと違うのは、たった今購入したのであろう紙パック入りの乳飲料を右手に持っている事
そして、そのまま固まって考えこんでいるところか
よく考えてみれば、大した問題では無いのだが
毎度毎度のそそっかしさにあやめは、自己嫌悪を強く感じ
昼食も取る気がしなくなっていた
(今日の気分は、絶対に冷たい牛乳だったのに…
あ〜仕方ない、苦手だけど飲んじゃおうかな
喉乾いてきたし… )
付属のストローをさして一口飲んでみた、あやめ
途端に口いっぱいに広がる嫌悪感
(…やっぱ無理… 苦手なものは苦手だ
食べ物を粗末にするのは気がひけるけど、捨てちゃおう… )
意を決し立ち上がると
真っ直ぐ水飲み場に向かった、あやめ
そして、紙パックの中身を流そうと、彼女がそれを逆にした…途端…
凄い勢いで誰かが飛んで来た
今まで、一部始終見ていたのだろう、彼のひとは
血相を変えて渡り廊下から飛んできた
『ちょっと待ったァーッ』
あやめの手を取りその行動を阻止したのは、彼女の担任である坂田銀八
この学校で現代国語を教えている
『 お前、なんて事してくれちゃってんのォ?
食べ物粗末にしたら、もったいないお化けが出んだぞ!小さい頃教わんなかったのか?
し、し〜か〜も〜いちご牛乳を捨てようとしやがりましたね、コノヤロー
あぁん?これ、購買横の自販機のだろ!
今、俺が買おうとしたら売り切れだった!
あ〜腹立つ〜
イライラするぅ〜
捨てるんならよこせ!』
マシンガンの様に一方的にまくし立てた銀八は、大人気もなく、あやめからいちご牛乳を引ったくって、ベンチに腰掛けてから飲み始めた
そんな銀八の横顔にあやめは、声をかけた
「先生、それ、少し飲んじゃったけど 」
(私が口つけたのだけど、 気にならないのかな…)
あやめは、次第に顔が熱くなっていく自分に気付き、思わず両手で頬を押さえた
そんな彼女の様子に気付いた銀八はいじわるそうに
『おっ猿飛、何かな〜顔なんか赤らめちゃって〜
今日び、間接キッスなんかでドキドキしてる高校生なんていねーんじゃね?
最近の女子は、進んでるよね〜 』
とニヤニヤしながら、セクハラおやじ全開モード
「そんなことないです!極一部のケースです
先生はマニアックなAVの見すぎですよ! 」
およそ純情とかいうものからほど遠い存在と思われる銀八の口から
『間接キス』なんていう甘酸っぱい言葉を聞いてしまい、今時の女子校生は益々紅く頬を染めてうつ向いた
いちご牛乳を一気に飲み終えた銀八は、ふーっと息をつき、あやめに問いかけた
『…マニアックって…俺の嗜好よくわかってんじゃ… あばば、じゃねェーよ
何で、せっかく買ったもんを直ぐに捨てようとしたんだよ 』
いつもは大人びてるあやめの表情が、少しふくれっつらをした年相応の少女のそれに戻った
「牛乳を買おうとしたら、ボタンを押し間違っちゃって
仕方なく飲もうとしたんだけど…小さい頃から苦手なの、甘い飲み物は
いちご牛乳みたいな甘ったるくてくだらないものを食すると
体だけでなく心までくだらなくなると親に教えられきたから
それから苦手 」
『ふーん 悪かったな、心までくだらなくて
もう、全身くだらないの塊じゃね?俺 』
悪びれているものの、あやめが持ってきた弁当が気になっている銀八
先程から、目線の先は芝生の上の包みをチラチラ行ったり来たりしている
『お前、昼飯食ったの?』
「未だです でも、なんだか食欲が無くなっちゃって…先生はもう食べたの?」
『ん?武士は食わねど高楊枝ってね
ホントはあと500円位しかないから、今日は昼抜き
ジャンプと煙草買って終りだな 』
「先生…もし良かったらお弁当食べて
私が作ったから味の保証はしないけど… 」
『おっ くれるの?
でも、育ち盛りがチャンと食べないと駄目だぞ…ってもう十分に育ってるか…
いろいろと猿飛は
あ、いや…
じゃあ、せっかくだからお相伴にあずかりますか』