綴
□偽りの午後
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…―――魔がさしたんだ
待ちに待った、昼休み
最近は、毎日のように
先生と過ごしてる私
誰も来ない旧校舎の屋上は二人だけで会うには格好の場所ね
そこから見渡す風景は
とても清々しい
雲ひとつ無い
澄みきった青空
今日は遠くの海も見える
髪を擽る風も気持ちいい
こんな穏やかな気分で
いられるのは
先生――――――
貴方が隣にいてくれるから
ねぇ、先生
今日もおべんと、
頑張ってきたよ
玉子焼きは
こないだのリベンジ!
今度は自信あるよ
『……何、その包帯…』
先生は、くわえ煙草で
視線だけ私の膝へ落とす
「朝、遅刻しそうで
ダッシュかけてたら
校庭で転んだ 」
『お前は、ホント…ドジな ほら、足出してみろ
ほどけかかってる 』
コンクリートの階段に腰をかけて、痛む左足を先生に差し出した
誰かに包帯巻かれてる時って、くすぐったいな
それが、大好きな人だったりすると
余計…くすぐったくて
恥ずかしくて、嬉しい
…とても安心する
なんだか、守られているみたい…
『こんな傷だらけじゃ
嫁の貰い手、ねぇーぞ』
「その時は、
先生のお嫁さんに
してくれる? 」
『 ………………… 』
いつもだったら
冗談で切り返すのに…
先生、どうかした?
『……ゴメン…』
「え?先生
よく聞こえなかった
なに? 」
『 …ゴメンな、猿飛
魔がさしたんだ
今までの事は忘れてくれ
今日からまた
ただの教師と生徒に戻る から
お前も充分、
楽しんだだろ 』
「…う…そ?…やだ…
先…生…嘘でしょ……」
『恋愛ごっこは
もう、終わりだ 』
突然の――――
――――――別れの言葉
一瞬で私を闇に突き落とす
もう、何も聞こえない…
眩暈がする…
目の前が真っ黒になる
先生の顔がよく見えない…
「…私、何か
気に触る事した…?」
『………………………』
…なんで、目を反らすの?
…なんで、名前で呼んでくれないの?
…どうして
そんなこと言うの―――
カランカランと音をたて
転がる缶がつま先にあたる
「…あ」
持っていた筈のジュースの缶は、いつのまにか手から落ちていた
中身がこぼれて
空っぽになったそれは、
カランカランと音をたて
いいように風に翻弄されている
こぼれてしまった全部
もう
もとには戻らないんだ
…空っぽ…今の私みたい…
『じゃあ…
午後の授業に
遅れないように 』
振り向かずに遠くなる
愛しい人の背中
…行ってしまった
付き合う前のように
冷たいそぶりだね、先生
最後くらい
優しくしてくれても
いいじゃない
…最後か
これで本当に終りなの?
嫌だ!
もう一度、話がしたい
このまま一方的に
サヨナラなんて…
いくら先生でも酷すぎる
悲しいくらいに
空は青く澄みわたり、高い
私の心は
真っ暗な地の底へ
突き落とされた
昨日まで、楽しく穏やかな昼休み
今日を迎えてみれば
一転して考えられない程
冷たい時間
なんて残酷
でも、それが現実
現実…
本当にさよならなの?
先生―――――