L'ecrin-レカン-

□俺だけのSummer body
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 青い空、白い雲と砂浜、真っ赤に照り付ける太陽。
 如何にも夏な光景が目の前に広がる。もう、THE 夏!である。

 そのTHE 夏!の光景にはやはり水着の女の子が付き物で。
 男としては瑞々しい彼女達に目が行かないワケがない。寧ろ行かねば男が廃る。
 見とれて鼻の下に赤い筋が一本通った時、隣の女におもくそ銀髪を掴まれた。



******



 あやめの家でテレビを観ながら、銀時はでろりと横になっていた。
 季節は夏。番組の内容など殆ど頭に入っちゃいない。
 暑さに茹だるその姿は、さながらこの時期の動物園のシロクマのようである。
 果物が入った氷の塊なんか差し出せば、きっと抱き着いてガリガリかじりだすに違いない。
 しかし彼の前に差し出されたのは九州名物白熊アイス。
 銀時はのそり起き上がると、黙々とアイスを食べ出した。


「夏ね」


 シャクシャクと氷をスプーンで解しながら、あやめが感慨深げに呟いた。


「ああ。
そろそろ蝉が、一週間しか生きられねーっつーのに人の安眠を妨害する程ミンミンミンミン馬鹿みてーに鳴いて無駄にエネルギー消費する季節だな。
もうちっと口数少なくなりゃああと五日は長生き出来そうな感じなのによォ、ホント無駄だよな」


 かき氷と練乳と黒豆をまんべんなく混ぜ合わせ、銀時は相槌を打つ。


「海行きましょ、銀さん」


「何?急に」


「夏と言えば、海よ」


「…あ?」


 何となくテレビに目を遣れば、地域の最新情報なんぞを紹介している。
 どこかの海岸が海開きとかで、中継先では老若男女が海を満喫していた。
 なるほど、そういう訳かと銀時は納得する。


「めんどくせーだろ、わざわざ人混みに出向くなんてよ。
それに暑ちィし、しかも灼熱だし、加えてホットだし、おまけにヒートだし」


「海行って、一緒にビーチボールを弾ませましょう。
ついでに二人のハートも弾ませましょう。
これこそ日本の夏、恋人達の夏よ!私憧れなの、好きな男の人とあんな事するの」


 嬉々としながらあやめが指差すテレビでは、恋人同士と思われる男女がビーチボールをぶつけ合いはしゃいでいた。


「……」


 銀時はビキニを着てはしゃぐ女の方の胸元の見た後、さりげなくあやめの胸元もチェックする。


「…いいんじゃね?
ああいう所で喰う飯は格別だし」


 適当な理由を付けて、あやめの水着姿に期待を寄せた。



******



「いてーいてーいてーいてー!
抜けるッ、抜けるから!毛根からゴソッとォ!!」


 痛みで顔を歪ませる銀時を見止めて、漸くあやめは手を離す。


「ってーな、禿げるわ!禿げ散らかるわ!
海行って頭皮が不毛地帯になるって、どんな恋人達の夏だよ!!」


「酷いわ、銀さん。
他の女ばっかり見て鼻血出して」


 そう言ったあやめは口を尖らせて、プイッと横を向いてしまった。
 レンタルしたパラソルの影が自然と周りと隔てさせ、拗ねた彼女の顔も、海パン姿でビーチボールに顎を乗せた銀時の顔も日陰に曇る。

 やけくそで冷えたラムネを流し込んだ。


「そりゃあね、銀さんだってお前見て鼻血出したいよ。
真夏の太陽の下でお前の柔肌拝みたいよ。
なのによォ…それは無いんじゃね?」


 顎でしゃくったあやめのスレンダーボディは、ここはキラキラと眩しい海水浴場だというのに浴衣でがっちりガードされていた。
 祭などの行事に着ていくような派手な浴衣ではなく、薄花色の地に藍色の小紋が散る、軽装といった落ち着いた感じのモノだ。

 あやめもラムネを一口飲み、バツの悪そうな表情で俯いた。


「だって、恥ずかしいじゃない…」


「恥ずかしいって、おま…」


 言われて銀時は、あやめの言い分に理不尽そうに眉間に皺を寄せる。

 タンキニを着た若い娘が、彼らの目前を楽しげに駆けていった。


「今更何言ってんの?
水着くれーで恥ずかしがるような関係じゃねーだろ、俺ら」


「一応着てはいるのよ?この下に。
でもいざとなると、なんか…」


「え!?着てんの?マジでか」


 そうと聞いたら、ますます理不尽極まりない。
 俺は不機嫌だというオーラを全面に押し出して、銀時はあやめに掴みかかる。


「アッタマきた。ぜってー見てやる。
もう、オメーの水着見るまで帰らねー。
夏が終わらねー。つか始まりもしねー」


「あっ!ちょっと、銀さん…」


 日陰の中で一進一退の攻防が始まったが、やはり力ではあやめは銀時には敵わない。
 次第に押し倒され、温くなったビニールシートにペタリと背中を追いやられた。
 パラソルの下、観念しろと言わんばかりに銀時が不敵に笑う。


「銀さん止めて、人が見てるじゃない…」


「……」


 あやめが声を絞り出すように呟くと、銀時は黙って周りをチラと気にし、帯に掛けた手を退けた。


「そーだな。人が見てるもんな」


 銀時が体も退かしたことで、やっとあやめも居住まいを正せる。
 彼が意外と素直に退いてくれたのに安心した反面、内心物足りないと思ってしまうのは彼女の悪い癖かもしれない。


「その代わり― 」


 ラムネを全部飲み干して、銀時はこう続けた。


「宿でしっかり見せてもらうからな。
覚悟しとけよ?さっちゃん」


 押し倒した時の笑顔で意地悪く宣言する。

 ああ、やはり体力面でも精神面でもこの銀時(ひと)には敵わないのだ。
 彼から見ればちっぽけな存在だがそんな自分が密かに誇らしく思い、あやめはそっと頬を染めた。



******



「銀さん止めて、人が見てるじゃない…」


「……」


 あやめの言葉に、銀時は太陽の光が当たる砂浜を見渡す。
 確かに、行き過ぎる人々の好奇の眼は自分達に向けられているようだ。


「そーだな。人が見てるもんな」


 気に入らない。

 こちらを指差し嬉しそうにニヤけるナンパ野郎二人組。
 鼻の下伸ばしてチラ見して、彼女に肘鉄砲食らうカップルの男。

 俺(ひと)の女をそんな眼で見てんじゃねーぞコノヤロー。
 焼けた砂の上でビーサン履き忘れて、あちッ、あちちッ!!とかなっちまえ。


「その代わり…宿でしっかり見せてもらうからな。
覚悟しとけよ?さっちゃん」


 誰がテメーらの望み通りにしてやるもんか。
 あやめ(こいつ)の水着姿は俺だけの、真夏の身体なんだからな。

 色っぽい浴衣姿が見られるだけ、ありがたいと思いやがれ。







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