L'ecrin-レカン-
□恋に溶けて君に溺れて
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「暑ィ…」
うだるような暑さが続く。
俺は涼を求めてあやめの家に来ていた。
万事屋にはクーラーがない。
クーラーのあるあやめの家に避難して来たのだが、生憎あやめの家のクーラーは故障していた。
しかし故障は知ってて此所に来た。
クーラーだのそんなもん口実に決まっている。
あやめの家に行く口実にすぎない。
何だかんだと理由を付けては、あやめのいる家に向かう。
照り反る暑い道程を、心だけは夏休みを迎える子供みたいにウキウキと弾ませて。
あやめが待っていると思えば、肌を焼く太陽に照らされようが暑かろうが、それもまた余興になり。
浮かれ気分が、それらさえも霞ませる。
こうしてあやめと共にいる事で、夏の暑さは熱さに変わる。
「暑ィ…。こう暑ィと海とか行きてぇなぁ…」
団扇で己に風を送りながら、あやめに話す。
「良いわね! あのね。脇さんにプールに行こうって誘われてね。この間一緒に水着を買いに行ったの。水着姿、銀さんに見て貰いたいわ」
「そんなん見るに決まってんじゃねーか。…つーか水着買うなら教えろよ。俺が真っ先に見れねーじゃん、お前の水着姿。俺を差し置いてプールなんて約束してんじゃねーよ。プールはキャンセルな。海行こーぜ、海」
俺は束縛するって言っただろーが。
まだ分からないのか。
俺の居ない所で、他のヤローにコイツの水着姿を拝ますかってんだ、コノヤロー。
「そうだわ!それなら 神楽ちゃん達も一緒に…」
「アイツらはダメ」
咄嗟に言葉を遮り却下。
「え?」
「いーじゃん。二人だけで行こーぜ」
俺の言葉に驚いたのか急に赤くなり、コクンと小さく頷いた。
俺だってお前と二人でいたいんだ。
夏の予定を当てもなく立てるのもまた楽しい。
そんな昼下がり。
出された冷たい茶はとっくになくなり、グラスの中には氷だけ。