リクエスト集

□花の回廊〜中編〜
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「……なんて綺麗…なの すごいわ…眩い桜色が、ずうっと続いてる …涯が見えないくらい」

空の色と桜色と川の水色…その水色に映るもうひとつの桜色の世界…

夢のように美しく優しい色合いのコラボレーション


霞みがかった春色の帯は…例えるならば、天女の羽衣か…妖しい光りを孕んで何処までもたなびく…


時折吹く風が桜の花を散らし、その花びらが音もなくゆるりとこの世界を漂う

それはそれは、より一層に美しく儚く幻想的な演出をする


「まるで…桃源郷」


桜のトンネルを抜け、土手から見える光景に思わず心を奪われた


『桃じゃねぇから、桜源郷だろ よし、ここから下りてくか ホラ』


土手から河川敷に下りていく貴方が手をさしのべてくれた

道なき道を進むので不安定な足取りと、貴方の予想外の言動に戸惑いながらも…その大きな手に委ねた


そっと重ねた手を、しっかりと握り返す貴方 なんだか恥ずかしくて顔を見る事が出来ない

こんなにも側にいるのに…あんなに夢に見るほど…大好きな貴方と手を触れ合っているというのに


繋いでいられるのは僅かな時間だけ

だから、いよいよ貴方の手が離れるという時、思っていたより直ぐではなかったのが内心嬉しかった


仲良く手を絡めて歩く恋人同士の気分を、ほんの少しだけ味わえた

貴方の手の温もりが、私の手に伝わり…それが心の芯に火を点してしまう


それはそれは、とてもゆっくりとゆっくりと静かに燃えあがっていく 恋の炎

お陰で、さほど嫌われていない…などと勝手に良い方へとってしまう


それでも…後から辛くならないよう、自ら釘を刺した

勘違いしないで!銀さんは、誰にでも優しいのよ こんな小さな事で舞い上がってちゃ駄目



…そうよ そんな事―――私が一番良く解ってる




「…梅、レンギョウ、モクレン、水仙、ビオラに、チューリップ…
春を告げる花々が色とりどりに咲き乱れるけれど…この季節、やはり主役はこの花に他ならないわ

空を覆い、重ねるうす紅色は…冬を耐えて花開いたものの中でも最も美しく咲き、潔く散る…
桜を前にすると、どんなに色鮮やかな花も霞んでしまうわね」



額の汗を手の甲で拭いながら、再びさくら回廊と呼ばれるこの辺一帯を見渡す

そして、貴方の言葉を待った



『ああ…この時季、桜に敵う花なんてのは…俺ァ他にはちょっと、知らねぇな いつもながら、見事だよ
毎年毎年、期待を裏切らず絶景を拝ませてくれらァ』

私の言葉に頷きながら、やはりこの幻想的な花色に染まった景色を眺める穏やかな横顔に安堵の感を覚えた


それにしても…なんて優しい笑顔なんだろう

いつの日か、私にも向けてほしい …桜が羨ましい



「…侍(おとこのひと)って桜、好きね 一番好きな花だと思っていいのかしら」


『んー …そうだな まあな、桜は風情があって良いもんだ 嫌いというヤツは滅多に居ないんじゃね?
でも、まァ そうさなあ…一番かと聞かれると、どうだろな
…最近まで、俺の中では一等好きな花だったけどな

…さて、このへんで良いだろ』


そう言い放つと、一本の大きな桜の木の下で立ち止まり…袂からコンパクトに畳まれたシートを出して広げ始めた


『はぁ〜 しかし重かったな、これ どんだけ沢山のご馳走なんだよ よくウチまで持ってこれたな』

「あら…そんなに重かったかしら…感じなかったわ」

『ヘェー あ…そーいえば、お前は怪力の持ち主だったな』

「酷いわ、銀さん!違うわ私、握力が普通の男の人より有るだけ…よ!」


『へーへー んじゃ、そういう事にしておこう ま、あんま変わんないけどな』

会話を交してるうちに、微かな疑問が生じた

先に来ている筈の二人の姿が何処にも見当たらない

人出が多くて見つけられないというのではなくて…

だって、まだかなり早い午前の時刻

夢のようなこの世界の真ん中にいるは私達二人だけだ


「あら…? 確か新八くん達が先に来てたんじゃ…」

『ああ、アイツらは、後からくんだよ お使い頼んだから』


「そうなの」


シートに上蔵をかいて、私をチラと見上げる貴方は…何故かそわそわしていて

その手は顎の辺りを摩り始めた


『…それよりも、メシだ 飯!俺ァ朝から未だなんも食ってねぇんだ』
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