銀誕2008
□其の一
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お天道さんの光りが、このかぶき町界隈を目覚めさせきれないでいる時間帯
夜から朝へと白しらと明けていくこの時刻は、流れ変化していく空気の匂いと
目覚め活動し始める、全ての生き物の命の息吹が奏でる音が静かに染み入り
弥が上にも、心の襞に何とも深い感慨の記憶として刻まれる
そして徐々に、自分の周りを取り巻く空気の温度が寒色になっていくのを、最近ひしひしと肌身で覚える
俺の城、万事屋 ウチの和室は寝室にしては少々広すぎて、この時季は寒々しい
煎餅蒲団の硬い重みと、最近手に入れた仄かに甘く香る、ゆるやかな温もりが手放せない
二人で夢路を通い合っている間に、激しくも鮮やかな夏の面影は、もう疾うに無くなっていたのだな
『…おいで』
俺の腕の中からいつの間にかにこぼれ落ちた、あやめに声をかけた
やや下方へ手を広げてやれば、珍しい寝惚け眼でむくりと上半身を起こして座り、寝間着の袷を直してから ちょっと躊躇う
それでも、ほんの少し頬を染めながら再び抱かれる様は、とても可愛らしい
左腕にかかる、サラリとした髪の感触と愛しい重み
あやめは、俺の腕が痺れるだろうと何時も気をつかって外れようとするが
惚れた女のための腕枕、こんな甘い痺れもたまにゃ良い
サクラの実のような、小さくて形の良い唇が仄かに紅く色づき薄く開いてる
頬を擽る、花蜜色の吐息
いや、ホッペタだけじゃねぇ なんか、胸ん中のどっかが擽ったくて、体ん中のどっかがムズムズする…
引き寄せられるように、眠る果実の味を確かめてみた
…うん、甘酸っぱい…な
やわらかい人肌に身も心も包まれ安心した俺は、瞼が起きていられなく…そして再び夢を結び、底の世界へと落ちていった