Wシリーズ

□冬の華
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休日前の夕方の街並みは、いつもより穏やかに時間が進んでいるように見える


季節は寒い冬 なのに、小さな商店街のスピーカーから聞こえるメロディーと一緒に、温かい雰囲気がこの街全体に流れてる


長年使い回したような、チープなクリスマスソング…申し訳程度の、手作りのディスプレイ…

でも、押し付けがましくない、それは 不思議と少しだけ…ほんの少しだけ、幼い頃の楽しい冬の記憶を思いださせてくれる


…ああ、もうそんなシーズンか…


くたびれた色のコートで、背中を丸めて歩くサラリーマンの虚ろな目

虚勢という派手なガチガチの鎧を纏った、OL達の美しく無機質な笑顔

耳障りな音を発して歩く、若者の厳しい表情

街でよく見掛けるそれらが、不思議と今日はあまり存在していないように感じる


うつ向き加減の人の波が、心持ちいつもより上向きに むしろ皆、明るい穏やかな顔 浮足だつように足早に、家路についている


…みんな、楽しい予定があるんだろうな…


目の前のガラスに写ったセーラー服が、溜め息をつく

どちらかと云うと、落ち込んだ暗い表情をしているのは、私と…今、恋人から別れ話を切り出されたばかりの、この子くらいだろうか

この小さな世界の中で


…ごめんなさいね 別に聞くつもりも…なかったんだけど… この狭いファーストフードの店内 隣合わせの二人の声は、いやおうなしに耳に入ってしまう


…泣いていた…あの子 そうよね 大好きな彼に、突然…それも、クリスマスの直前に振られてしまったんだもの
両想いで幸せを紡いでる筈だった時間が、たったの一言で、その瞬間に途切れてしまう 未来へと繋げていく筈のものが、過去のものにされる…



…あの日の私も、きっと同じ表情をしていただろう
そう…校舎の屋上で、先生に別れを告げられた…あの秋の日


あれから―――あの別れの日を境に……


心の片隅に、切ないほどの先生への思いを再び隠して…残り少ない高校生活をおくってきた


振りかえってみれば、家から学校までの何時もの景色も、街ゆく人々も皆、本格的な冬支度
…季節は、悩み続けている私を待つこともなく、日々確実に変わっていく


…私だけが、未だあの時間の中に取り残されていて…答えがでないまま、もがいている


この世に生まれ落ちて18回目に訪れた冬は、とても辛く寒い…忘れられない季節になりそうだ
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