□幸せは、皆に平等に降りそそげば良い
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「あら、どおりで寒いと思ったら…」



寝室の障子戸を開け見上げると、どんよりと曇った空からふわり、またふわりと白いものが落ちてきた。

そろそろ時間なので、まだ心地よさそうな顔をして眠っているが、彼の耳元に声をかける。


「近藤さん、朝ですよ 起きないと遅刻しますよ」



ひと呼吸おいて、う〜んと伸びをしながら彼が目を覚ました。


「おはようございます」

『…おはようございます 今朝は一段と冷え込みますね』

「ふふ、ご覧になってくださいな」


少し首を傾げて、浴衣の合わせを直す。窓に近づき指差す方を彼は、見た。


『…!雪かぁ!こりゃあ寒いわけだぁ』

「今年初めての雪ですね」

お互い白い息を吐きながら、にっこり顔を見合わす。
ふと、思い付いたので言ってみた。



「あの、今日のお帰りは遅くなりそうですか?」


普段あまり聞かないであろう台詞に、少々とまどいながらも彼は


『今日はあまり忙しくないんですが、屯所の奴等と忘年会の約束をしてたんで』

と、ちらりと私の様子を伺った。思いがけずに、それならと


「今晩は皆さんを家に連れて来てくださいな あまり大層なおもてなしはできませんけど
湯豆腐だったら大人数でもなんとかなるかしら そうそう、頂き物のお酒も沢山あるし」


いつもより、ありったけの優しい笑顔で言ってみた。


『お妙さん…皆…喜ぶと思います』



「新ちゃんと神楽ちゃん、銀さん達も呼んで やっぱりお鍋は賑やかなのがいいわ」


最後の名前を聞いた途端に彼の顔のほころびかとれ、神妙な面持ちになった。



『お妙さん…銀時も呼ぶんですか やっぱりまだアイツの事…』



一瞬、言われた事が分からなかったが、ああこの人はまだ気にしているのねと思い…


「近藤さんらしくないですよ 万事屋の皆も仲間でしょ
それに、あんな人だって貴方の義弟の上司ですから …一応ね」


それに…と続けて


「何を勘違いしているのか分からないけど、銀さんは、もう一児の父親だし
私には近藤さんだけしか見えないのよ」



昨夜焚いた香が、ふわりと甘い目眩をもたらしたので、素直に最愛の人に体を預けてみた。はにかみながら彼は


『 あの…お妙さん…一緒になってからだいぶ経つので、そろそろ近藤さんじゃなくて…』


顔を見上げながら


「ふふふ それもそうですね 勲さん…何だかはずかしいわ それとも未だ早いけど お父さまかな?」



どんな反応がかえってくるかとじっと目を見つめてみた。案の定…


『えーお父さまは未だ未だ早いですよ いくら俺がオッサンでも
酷いなあ、お妙さんはー 貴方とか、勲さんって呼んでください…
…って、エエッ?も、も、もしかして、お、お妙さん!おめ、おめでとうございますぅ?』



混乱気味の未来のお父さまに、にっこりと笑顔で応える。


『 俺の子! 俺の…! 』

嬉しくて叫びたいのでしょうけど、グッと喜びをかみしめ彼は、私の背にまわした腕に力を込めた。



『 お妙…ありがとう なんて幸せなんだ俺は 』



あまりにも真剣な目が眩しくて、どう応えたらいいか分からなかったから



「きゃっ もうこんな時間!急いで朝食の支度をしなくちゃ
こ…貴方も早く顔を洗って来てくださいな」



時計を見るふりをして、愛しい人の腕の中からするりとぬけた。
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