イベント集

□Milky Way
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貴方を困らせてみたくて、人混みの中わざとはぐれた夕暮れの街角


行き交う人の波は、見知らぬ横顔ばかりで


古(いにしえ)の星伝説の軌跡を求めて流れる


貴方の背中を手放した私は、異国で彷徨う迷子のよう


冷たい流れの中で立ちすくみ、直ぐに後悔した



ただ、手を繋いで歩きたかっただけなの


皆のように 普通の恋人達みたいに


なのに、貴方はズルイ答え


大人の言い訳ね


『他人(ひと)が見てるから』と―――


ありきたりの事が、私達には難しい


優しい手を待っている心が、迷い子になる


本当は、私だけの片想いなの?


貴方は私の事、どれくらい想っているの?



ぎこちない我が儘を演じる私に、どうか気付いて



貴方との距離が遠い


心まで離れていかないで


阻むのは、戒めという名の見えない川



すべてを越えてこちら側に来てほしいのに


やっぱり、許されない恋なのかと思い知らされる



セピアの街が、モノクロームに変わる


すべてがスローモーション 昔の映画を見ているよう


誰かが落とした犬の縫いぐるみが、歩道で泣いている


踏まれて汚れた彼を拾って、ぎゅっと抱き締めた


…君も迷い子なの?愛する人と、はぐれたの?


お願い、早く気付いて――愛の元に帰りたい


******


もう、前には進めなくて…歩道のすみに、しゃがみこむ


「お姉ちゃん、拾ってくれたの?それ、僕のクウちゃん」


うつ向いてた顔をあげたら、眩しいくらいに真っ直ぐな瞳がそこにある


「…クウちゃんって言うんだ、この子 …はい」


くたくたのクウちゃんは、大好きな少年の腕に抱かれて嬉しそう


…良かったね もう君は、ひとりじゃない


「お姉ちゃん…なんで泣いてるの?迷子なの?」


…私…泣いてる?やだ…涙が勝手に出てくるの 泣いてなんかいないわ 泣いてなんか…


「泣かないで、お姉ちゃん」


小さな温もりが、頭を撫でてくれた ありがと、君は優しい手を持ってるね 将来きっと、素敵な紳士になるね


でもね、私が待っているのは…違う手なの



再び、心が下を向く …あの温もりを探している右手を自分で抱き締めた


   ……先生……




『…やっと見つけた…』



未来の紳士の小さな靴の横に、見覚えのあるシューズ


ポタポタとアスファルトの上に、雫が落ちる


…息を切らして…汗びっしょりで…走って来てくれたの?…


『 悪リィ な、ボウズ その娘、俺の 落しもん だから 後は…タッチ交代 な…』


「オジちゃんのお姉ちゃん?」


『…オニーさんだ!』



ハァハァと息を調えながら、少年を睨む
小さな子にムキにならないで…おかしくって涙を流しながら笑った


「バイバイ、お姉ちゃん バイバイ、オジ…お兄さん」


「ぷっ」


『…そこ、笑うトコじゃねぇだろ ったく…』



流れる額の汗が、別人の表情 まだ乱れてる息が苦しそう… 探してくれてた…こんなにも…心配してくれてたの?


…嬉しい…だけど、初めて見る困惑の色は…思っていたより胸が痛む


…やっぱり私、まだまだ子供だわ


ごめんなさい もうしない…もう、困らせないわ



『ほら…手』



ぶっきらぼうに差し出されたのは、私が待っていた温もり


優しく温かく包んでくれる大きい手



「……他人が見てるよ」


『いいんだよ 今夜は特別 また迷子になるぞ それに…』


「それに?」


『ナンパされないように』


「やだ…冗談」


…あんな子供にヤキモチ焼いたの?……でも、なんか嬉しいよ、先生



『なんだよ 小さくたって、男は、男だ』




…どんな人に声をかけられても、絶対に振り向かないわ


だって…私、先生しか見えないんだもの


でもね、態と言わない  たまには、ご機嫌とってほしいから



『…さあて、なんか美味いもんでも食いに行きますか お嬢さん』


繋いだ二つの温もり 確かめ合うように…しっかりと握り締めて歩き出す



見上げると夜空にはミルキーウェイ


年に一度だけの二つ星の逢瀬


それに比べたら…私と先生は、毎日逢えるだけでも幸せね


変わらぬ気持ちを笹の舟に乗せて、夜空の川に流そう


輝く軌跡は、きっと未来へと続いてる どこまでも
 

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