イベント集

□星合いの夜に
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結局、僕は何のために存在しているのだろう


どんなに頑張ったって、結果がだせなきゃ駄目なんだ


僕ひとり居なくたって、世界はなんら変わらない


なのに、どうして…僕はここに存在している?


…誰か教えて 僕の存在する意義を






夕方、丘に登ってゆっくりと沈んでいく陽を眺めていた


背中を丸めて見ていたら、気持ちまで膝を抱えてしまっていた


…なんだろ…泣きたくなってきた


駄目だ 駄目だ 男たるもの、そう易々と涙を流す訳にはいかない


女々しいぞ、新八!


『そんなだからお前は新八なんだ』なんて声が風に乗って聞こえてくる



悔しいけど、全てに於いて未だ未だあのグータラ侍の足下にも及ばない



「あら、先客が居たのね」


花のような香りを漂わせて、疾風がたった


その中心から颯爽と現れたのは、ちょっと変なくノ一だった



「今ね、そこの林から採ってきたのよ枇杷の実 食べる?」


すんなりとした白い手が渡す小さい果実たちは、沈む夕陽の色に染まっていた


「…ありがとうございます」


遠い昔に、一度食べた事のある枇杷の実


高級な果物というイメージが強いだけであまり美味しいものの記憶はない


さっちゃんさんには悪いけど、期待しないで口にした


「あ…美味しい」



店頭に売られているそれとは違い、形も歪でちんちくりんだけど…今まで食べた果物の中で一番優しい味がした


「ね、美味しいでしょう 木に生ったまま熟すから、栽培されているものより甘味があって…なによりも優しい味がしない?」


「はい、とても優しい味がします」


「桃栗三年、柿八年 枇杷は早くて十三年…とはよく言ったものね


枇杷は地味で白い花を咲かせ、結実するには、そうとうな年月を要するの


それはそれは、気を長くもたなきゃならないわ


でもね、食べてみて感じたでしょ?他の果物にはない、なんて甘く優しい思いを感じさせることか」


「…そうなんですか だから枇杷の実って貴重なんですね」


…どれくらい時間がかかってもいい 僕もいつか実を結びたい


眩しく光る夕陽の天辺が山端に完全に飲み込まれるのを見ながら、そう思った



同じ様にして静かに落陽を見ていた彼女の横顔が、再び続けた


「ねえ…新八君 あなたが今、何を思い悩んでいるのかは聞かないけれど


あなたきっと、自分で道を切り開ける


…大丈夫、あなたはきっと素晴らしい侍になるわ だから、焦らないで


例えどんなに時間がかかろうと、必ず実を結ぶ


とても素晴らしい実よ


そうして得たあなたの収穫は大きいわ


なにものにも代えられない


あなた、万事屋ファミリーだもの


銀さんが大切にしているあなただもの


あなたには可能性がある


あなたには、輝かしい未来がある


私、これでも人を見る目はあるつもりよ


まあ、眼鏡が無いと明日も見えないけどね」



「ぷッ あはは…なんか、おかしいや」



「…やっぱり 笑った方が素敵よ、新八君」


「……さっちゃんさん…」



不思議だ 親しい人に慰めの言葉をかけられると、同情されたのかと思い惨めな気持ちになるけど

普段あまり懇意にしてない彼女からの言葉は…何故か説得力があり、心にしみた

まだまだだ いや…まだ始まったばかりなんだ


僕の物語は…ありがとう、さっちゃんさん


銀さんの事だけしか目に入ってないのかと思ってました


だけど、彼を取り巻く人間の事も見えているんですね


その細やかな気遣いが、思っていたより温かいものだったので…


僕、まだ頑張れそうです


少しだけアナタの事、見方が変わりました


応援しますよ アナタの気持ちが、いつか想い人に伝わるように



そして、今度は僕がアナタの力になりたい



「…そういえば、今日は七月七日 七夕だったわね 
星が流れたら願い事をかけるわ 今年は特別に、へこんでる誰かさんのために」


次第に暗がりに包まれていく世界の中で、最後に辛うじて見えたその笑顔は、いつまでも僕の胸に残像を焼き付けた




どうか、僕のまわりの皆が幸せになりますように


僕を理解してくれている、彼女がいつか報われますように


あの人と一緒になる事で幸せになるかどうかなんて、僕には分からないケド


それでいいと言うのなら


それがアナタの幸せに繋がるのならば、僕は祈るよ




天の川が濃紺の空に浮かびあがる七夕の夜


黄昏ていた僕の心に明るい未来への扉を導いてくれた、ちょっと個性的な織姫のために願いをかけよう



銀色に輝くグータラ彦星が、いつかアナタを迎えにくる事を
 

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