イベント集
□らぶスイーツ・MAGIC
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婚約者の名前は、さっちゃん。万事屋の旦那様の名前は、ダーリン。
ごく普通の二人(本人達談)は、成り行きで恋をし、ごく普通の同棲(本人達談)を始めました。
でも、ひとつだけ違っていたことは……旦那様は、魔法使いだったのです。
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オンボロ長屋での生活も、銀さん…貴方と一緒に過ごせるのなら、ドブ川に住むよりもとっても快適で、贅沢な事ね。
貴方から打ち明けられて…あれから既に一週間が経つけれど、まだまだ、き恥ずかしさが先にたつわ。
お互いの仕事の都合もあるから、毎日逢える訳ではないし…でも、そのお陰かしら…日々、ドキドキワクワクしていて…とても充実している。
ああ、なんて人生って素晴らしいのかしら!
本業が忙しくて、クタクタに疲れていても…貴方のために食事の用意を…炊事、洗濯、掃除…すべての家事をする事は…、何をするよりも楽しいわ。
急あつらえの必要最小限の家財道具だから、スイートな雰囲気はあまり無いけれど…そんなのどうでもいい。
銀さん…貴方とひとつ屋根の下で正式に一緒に暮らす事が出来るなんて…
例え同棲でも…短期間の同棲生活でも…私にとっては夢の様な時間だわ。
一秒一秒、大切にしなければいけないわ。大事な思い出をたくさん、つくるね。
ああ、ダーリン…今夜は来てくれるかしら。だとしたら、何時頃に帰ってくるのかしら。
御飯が先かな?あ、お仕事で疲れて来るから…まずは、お風呂で汗と疲れを流すのかしら。
……そ、……それとも……それとも……わ、わた……きゃっ!嫌だわ…私ったら、いけないわ!そんな事考えてしまうなんて……
……でも、ダーリンがどうしてもっていうなら……私…かまわない…わ
『カチッ』
真新しい壁掛け時計が、戌の刻を告げる。
小さなちゃぶ台に頬杖をつき、時計を見上げた。
「…ダーリン、まだかなあ…お料理、冷めちゃう」
…今夜はいつもより少し、帰宅が遅いわね。そうだ、お仕事が忙しいんだわ、きっと。帰ってきたら、うんと労ってあげましょう。
『……ザッザッザッ』
聞き覚えのある足音…あら我が家の前で止まったわ。もしかして…
*******
私が待ちに待った音だわ、きっと。
『ガラガラガラ〜』
ほら、やっぱり…ウチの扉が開く音。ダーリンが帰ってきた!
『おう、今 帰えったぞ〜』
玄関先へ急いで直行し、みつ指ついてお出迎え。
「ダーリン、おかえりなさい!」
『…ああ、ただいま』
「ご飯にする?お風呂にする?…そ、それとも…わた」
『あ〜 直ぐに、飯にしろ 俺ァハラがペコペコなんだ』
居間へ直行し、二人用の小さなちゃぶ台の前に座る貴方。
急いでお料理を温め直さなきゃ!
「おかずとお味噌汁、温め直すから、ちょっと待っててね ダーリン♪」
『あ、ああ』
あら…なんだか疲れてるみたい。気のせいかしら…日に日にやつれていっている様な…
お仕事、忙しいのね。こんな時は、精のつくものを出した方がいいかしら…
よし、決めたわ!
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「さあ、ダーリン!召しあがれ♪」
食卓には、納豆料理のオンパレード。でもね、ダーリン。気が付いたかしら?今夜はちょっと特別なメニューもある事を。
『…いや、想像はついてたけどね。納豆御飯に、納豆汁、納豆の天ぷら…こいつは、チャレンジャーだな、オイ!まあ…ダークマターに比べれば…』
なんやかんや言っても、ちゃんと全部食べてくれるのね、優しいダーリン!
『…ん…今日の夕飯、なんかネバネバしてんのが、多くね?とろろ納豆とか…』
「あら、気が付いた?…なんだか、ダーリンが日に日に…やつれていってるみたいで…なんか精のつくものと思って。それに、とろろって、糖尿病予防にも効くんですって」
『…ふ〜ん。ま、いろいろと俺の体の事、気ィ遣ってくれてんだな。ありがとな。…でも、後から…どうなっても知らねぇぜ』
一瞬、上目使いをされた時は、あまりにも妖艶な瞳で…心臓が飛び出してしまうほど胸が高鳴ったわ。
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『あ〜食った、食った。ごっそさん。残すは、デザートだな。あんだろ、早く出せよ。』
「…あ、いつものプッチプリンね!ちょっと待ってて」
『…違げーよ。今日、何日だと思ってんだ。アレだよ、アレ。お約束だろ』
…忘れていた訳では無いけれど…やっぱり、期待していたのね…ダーリン…
「…えーっとぉ今日はぁ、2月14日だったわね」
『んだよ、ちゃんと分かってんじゃねぇーか。何の日か。』
「…2(に)1(ぼ)4(し)…で、全国煮干協会の日…」
急にキレた表情になった、ダーリン。無理もないわ…だって、期待していたんでしょ。チョコレート。
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『なに、そのマニアックな記念日!そんなの知ってる方が珍しいよっ もっと全国的に超有名なイベントの日があるだろっ おら、勿体ぶってないで出せよっ』
…仕方がないわ…なんとか今日をのりきろうと思ったけれど…ダーリンには、敵わないわ。流石、甘味王を自負するだけの事はあるわね…
戸棚から、歪な形の手作りチョコレートを出して、貴方の前に差し出した。
『なんだ、ちゃんと用意してるんじゃねぇか。手作りで、美味そうだし。』
「…あの、私…お料理は、それほど嫌いじゃないの。生きていくためには…食事をとるという事は大切な事だし…でも…お菓子作りは本当言うと、初めてなの…自信ないの」
『いやいやいや、かなりのもんだよ。最初にしちゃあ、かなりのもんだよ。センスあるんじゃねぇーの。早速、いただこう』
瞳を輝かせて手作りチョコを頬張るダーリン。噛み締める度に、複雑な表情になっていった。
「…心を込めて純正カカオ100%で、作ったんだけど…甘さ足りなかったかしら」
『…ぐっ…あのなあ、カカオ100%だけじゃ、ちっとも甘くねぇーんだよっ お前、カカオに果糖でも入ってるとでも思ったのかっ』
真っ青な表情で怒るダーリンに、急にグイと抱き寄せられた。
「ご、ごめんなさい…ダーリン…私、無知だったわ。形が歪だったから恥ずかしくて出せなかったのだけど…根本的に間違ってた」
ニタリと不敵な笑みを浮かべて貴方が耳元で囁く。
『なあに、こうすりゃ甘くなるさ』
超ビターなチョコレートを口移しにされ、そのまま深く…口づけされた。
「…あん、ダーリン…ちゃんと結婚するまでは…」
私の焦る顔を見て、ますます意地悪な表情をするダーリン。
『夕飯のメニューは、計算づくだろ…お陰様で精がついたよ。…もう俺、規制きかないからな』
苦い苦いチョコレートさえも、とろけるほど甘くしてしまうダーリンは、夜の魔法使いね。
本当は、ちょっと計算違いだったけど…
ああ、こんな魔法なら毎晩私にかけてね、ダーリン♪