小説

□Midnight Messenger
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 『あの娘探すのさ〜〜〜
たまたまつけたカーラジオから少し懐かしいバラードがかかっている。
今の俺の心情に歌詞が限りなくリンクしている。
自分の犯した罪の重さとあの娘の大切さを噛みしめるようにしてさらにアクセルを床まで踏み込んだ。



〜midnight messenger〜
Writeen by 芋焼酎



 ことの始まりは彼女が残していった一枚のメモからだった。
『アナタと居ると辛いの』
だだそれだけを書いてサヨナラも言わないで出て行った。
最初はどうせいつもの悪戯だろうと思って気に留めなかった。
普段からちょっと変わったユーモアを発揮するような娘だったのもあって寝起きの頭では深くは考えなかった。
それから数時間経ち、冷静にそのメモを見る。
よくよく見てみると一枚のメモ用紙かと思ったがメモ紙サイズまでに折り畳まれた便箋になっている。
中にはこう書いてあった。
『優斗がコレを読んでるって事は私はもうソコにはいないよね?だから先ずゴメンナサイ。でもーーー』

手紙には俺の非難ではなく、今まで溜め込んでいた感情が書いてあった。
「バカだろ」
震える声でそう言った。
それは彼女に向けて言ったのか自分に向けて言ったのかはわからなかったが、そう言うが早く家を飛び出した。

 それから思い当たる場所は全て探した。
二人でよく行った公園や散歩で歩いた道、商店街。
思い当たる場所は本当にこれで全部回ったはずだ。
「はぁ……はぁ…はぁ……っ、ドコに行ったんだよ」
息を整えて悪態をつきながらさらに行きそうな場所を考える。
ぐ〜〜〜っ
人間とはゲンキンな生き物だ。
こんなに不安でこんなに辛いのに腹だけは減るようにできてやがる。
「あ、アソコがまだあったな」
腹が減ったで思いついた店に出来るだけ早足で向かう事にした。


 「……いらっしゃい」
不機嫌そうな声で店員が出迎える。
「一応客ですよ?
「支払いをツケとぬかす客は客じゃない」
そんなこと言いながらもお冷やとメニューを律儀に持ってくる親友に感謝しつつ、本題を切り出す。
「弓音を知らないか?」
「…………」
軽いため息ととも黙り込むとミルで豆を挽き始めた。
「すまん、あんまり悠長にしてるばあーーー」
「いーから。コーヒー1杯奢るだけの間は待て」
「お、おう」
普段は出さない雰囲気を言葉に混ぜてコーヒーを淹れる。
ワザと風味を損ねない程度に熱くしたコーヒーのせいで一気に飲めないのをこらえつつ、ゆっくりと飲む。
飲み終える頃を見計らって話しだす。
「落ち着いたか?」
「まぁ、な」
最後の一口を飲み終え、カップをゆっくりとソーサーに戻す。
「ありがとうな」
「いいさ。あのままお前を弓音ちゃんのとこに行かせる訳にはいかないからな」
胸ポケットからマイルドセブンを出して火を灯ける。
そしてカウンターの裏から一枚のメモ用紙を出した。
「弓音ちゃんからの伝言だ」
その紙には弓音の筆跡で住所が書かれていた。
「福島県磐城市………ってコレ実家じゃねーか」
たしか前にデートついでに挨拶に顔を出したような気がする。
「頭冷やす様なこと言ってたよ」
灰皿に灰を落としながら眼鏡を直す。
「今から行ってくるよ」
立ち上がると椅子の背もたれに掛けておいた薄手の上着に袖を通す。
「精々話をこじらせないこったな」
少しの皮肉と多分な心配を込めて言いながら追い出すように手を振る。
親友のその態度に背中を押してもらって今度こそ本心をぶつけるべく弓音がいる場所へと向った。



 『追いかけて〜夜汽車の窓〜運んでよ〜、バカな俺を〜
「俺にダイレクトな曲だな」
テキトーにつけたカーラジオから懐かしい曲が流れている。
出発点から目的地まで約400`。高速を走っても約6時間の道のりだ。
それに途中で寝たり食事もしなきゃいけない。
自分でも悠長なもんだと思うが、むしろかっ飛ばして2時間くらいでついたら夜中に到着する計算になってしまう。
それなら日の出と共に着くようにした方が色々と都合がいい。
それにゆっくり走っている方が落ち着いて考えられる。
そう、弓音になんて言うかを考えながらさらに北を目指した。



 「確かこの辺りだよな」
頼りない記憶をあてに海沿いの街を走る。
数年前に来たときは隣にいた弓音の案内があってすぐに着いた気がする。
「近所迷惑だからクルマ止めるか」
そう呟くと目の前のパーキングにクルマを止めた。
そして今度は歩いて探す。
足は自然と軽く動いた。
心境的には高揚感にも似た浮き足立ったような気分だが、一秒でも早くこの気持ちを伝えたい。
だが、その思いとは裏腹に弓音の家が見つからない。
気づくと街外れの灯台側にある公園に来ていた。
引き返そうかと思ったが、ふと目にしたモニュメントが頭に引っ掛かる。
この小学生が工作の途中で投げ出したような造形をしているのを見た記憶を探る。
「そうだ……弓音とここに来たんだ」
そしてその時の記憶を掘り返してみる。
「たしかこっちに何かあったよな」
ほぼ覚えてないに等しい記憶の通りに公園の中へと進み、道の無い茂みの奥に向かう。
その奥は人の入って来ない絶好の日の出スポットでお気に入りの場所なのだと言っていた。
「あ〜あ、見つかっちゃった」
足下から出た枝の割れる乾いた音に長い髪を風に泳がせていた弓音が微笑みながら振り向く。
色々言いたいコトを頭の中で考えていたが、弓音の顔を見たらどうでも良くなってきた。
でも、長い髪とともに抱き寄せて口づけを交わしたらあの言葉だけは伝えようと思う。

「お前のコトを誰よりも愛している」と。



fin
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