?*忍
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昼休みの部室、跡部、樺地、慈郎、岳人、宍戸の5人が昼食を持って集まっていた。
樺地以外の四人は忍足に恋心を抱いているため、集まれば自然と話題は忍足に関することになる。
「かわいいよねー…、侑ちゃん」
「ああ、まさに俺様に相応し――」
「クソクソ跡部っ、侑士は俺のだっつーの!」
「あーん…?ふざけたこと言ってんじゃねーぞ!」
「そーだよがっくん、侑ちゃんは俺のだC〜」
「「ちげーよ!俺(様)のだッ!!」」
そんな感じで騒がしい3人を見ながら、樺地はどうしていいか分らずにオロオロし、宍戸は呆れ気味に溜め息を吐いた。
「おまえら、現実を受け止めろよ…」
宍戸の言葉に、立ち上がってシャツや髪を掴み合っていた3人がピタリと静かになる。
「忍足は長太郎と付き合ってるんだぜ」
3人は今までの勢いを一気に消失させて、力なく椅子に座り直した。
「それが気に食わねぇんだよ…ッ、なんで鳳なんかに…」
ダンッ、と跡部の拳が机を叩く。
「でもよぉ、長太郎はイイ奴だぜ?」
「ああ゛ン?」
跡部は宍戸をキッと睨み、宍戸はこれはもう何を言っても聞かないな…これ以上何も言わないことにした。
宍戸だって、忍足のことが好きで好きで好きなのだが、その忍足の恋人である鳳とはとても仲がいい。
よき先輩後輩の仲なのだ。
だから宍戸としては、忍足と鳳の二人で幸せになってほしいと思っているのだが…。
あとの3人は、自分以外の男が忍足を幸せにするなんて考えられないらしい。
「たしかにチョタは超優しいし、イイ奴だと思うけどさぁ」
「岳人…、ちゃんと分かって――」
「侑士にあんなコトやこんなコトしてると思うとすっげムカツク!!」
「あっ同感!俺がシタいっつーの!」
「…岳人、ジロー…」
可愛い顔をした二人がこんなことを言い合う姿を見るのは、なかなかショッキングだ。
そういえば、こんなにも跡部が食いつきそうな話題に跡部の声が聞こえない。
不思議に思った宍戸が向かいに座る跡部を見ると、彼は俯いたまま、体をワナワナと震わせていた。
「……あ、跡部…?」
それは実に恐ろしいオーラを出していたが、宍戸は勇気を出して声をかける。
「おい…、なぁ跡部…!」
「ウ、ウス……」
樺地も心配そうに声を掛ける。
その普通でない雰囲気に気付いた岳人と慈郎も跡部に視線を向けたとき、跡部はゆっくりと顔を上げた。
「……アイツらは…、そこまで進んでいるのか…」
いつもは輝くブルーの瞳を死んだように濁らせて、そう呟いた。
「なに言ってんのあとべ…当たり前じゃん」
「もう侑士たちが付き合って、二か月も経ってんだぜ?」
跡部のただならぬ様子に怖じ気づくことなく答える二人を、宍戸は少し尊敬する。
「あんな……“AVなんて一回も見たことないし全くこれっぽっちも興味ありませんっ☆”みたいな顔
をしてるくせにか…?」
「ぶっ!あははははっ!!!あとべ超ウケる!」
「そ、そんな男いないって…っ!」
腹を抱えて笑う二人の横で、宍戸だけは笑えずにいた。
跡部の纏うオーラが、どんどんどす黒くなっていくからだ。
「それに俺とジロー見ちゃったし」
「ねー」
「………何を、だ?」
宍戸は、二人を止めようと思った。
これ以上跡部を刺激したら、碌な事にならないのが目に見えていたから。
「おい、岳人もジローももうやめ…」
「何って決まってるじゃん」
「長太郎と侑士が、部室でえっちしてるところ」
「……言っちまったし…」
本当に、この二人の無神経さと人の話の聞かなさは尊敬に値する。
…しかし、てっきり大爆発を起こすであろうと思っていた跡部は、予想に反しておとなしく椅子に座ったままだ。
とりあえず良かったと、宍戸が胸を撫で下ろしたのも束の間。
バーッン!と跡部の両手が机を叩き付ける音が響き渡り、それと同時に跡部はすっくと立ち上がった。
樺地も宍戸も驚いて唖然とするが、岳人と慈郎の二人はおもしろい物でも見つけたかのようにキラキラとした目で、立ち上がった跡部を見上げる。
「……おい、テメェら…」
「なになに!?」
「敵を倒しにいくの!?」
「ああそうだ…、戦いてぇ奴はついて来い!!」
「よっしゃア!いくいく!!」
「俺も行くぜ!待ってろよ侑士!いま助けに行くからな!!」
そして3人は樺地と宍戸が止める暇もなく、あっという間に部室を出て行ってしまった。