?*忍
□06'1004
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日曜日、珍しく部活が午前だけで終り、遊びたい盛りの中学生男子たちは当然のごとく街へ繰り出す。
しかしせっかくできた半日もの暇だったが、その使い道に思い付いたのはカラオケと、ありきたりなものだった。
「おしたりぃ〜」
「ん?」
正レギュラー陣勢揃いでいつも利用している場所に向かう途中、慈郎が忍足の腕にしがみつき、指と指を絡めて手を繋いできた。
いわゆる恋人繋ぎだ。
その様子を、樺地と共に一番後ろを歩いていた跡部がジッと見つめる。
「俺すっげー眠いんだけど…」
「そんなん言われてもなぁ…」
「ねぇおんぶして〜?」
「わっ…!」
ぎゅう、と抱き付く慈郎に忍足はよろめき、隣りを歩いていた岳人にぶつかった。
「オイ、ちゃんと歩けよ侑士!」
「俺に言わんといて!コイツのせいや、コイツの!」
忍足は仕返しとばかりに慈郎の頭を乱暴に撫で回し、される慈郎は嬉しそうに笑う。
岳人は戯れる二人に溜め息を吐いて、後ろを振り向いた。
「ほらぁ、そんな仲良くしてるから跡部が怒ってるよー」
「はぁ…?」
岳人の言葉に跡部は間抜けな声を上げる。
戯れあっていた二人はピタリと止まり、ゆっくりと振り向いた。
「うっわホンマや……めっちゃ眉間にシワ寄せとるがな」
「かばじぃ、おんぶして!」
「…ウス」
跡部の表情を見た慈郎は早々と樺地の背中に逃げ込んで、すぐに寝息を立て始める。
「……何なんだよ」
跡部は不機嫌に呟いた。
確かに、ベタベタと忍足にくっつく慈郎には多少ムカついていたが、それはいつものことだからさほど気にしていなかった。
自分が眉間にシワを寄せていたのならば、それは岳人の突然の名指しに対してだったのだが。
「跡部」
「………」
隣りに来た忍足が、ニヤニヤと笑みを浮かべる。
「ヤキモチ妬いた?」
明らかにからかおうとしている忍足に、跡部は素直に答えてやることにした。
「ま、少しな」
すると忍足はキョトンとして、しばらくすると微かに頬を染め上げて、渋い顔をする。
「……ずいぶん素直やな」
その忍足の反応に跡部は微笑を浮かべて、ポンと忍足の背をたたく。
「オラ行くぜ、もうみんな入っちまった」
……人懐っこい見た目と性格の慈郎なら、こんな街中で手を繋いでも無邪気に戯れているように見られる。
自分にはとても真似できないそれを、少し羨ましく思った。
跡部の誕生日が休みだったら、外に出ないで一日中抱き合ったり、くっついて過ごせるのに。
「……今日は学校サボってまおか」
現在、四日の一時を少し回ったところ。
行為を終えてベッドの中でイチャついていたところで、忍足はそう跡部に言った。
「……本気でか?」
「優等生の生徒会長さんが、ええって言うんなら」
「…………」
跡部はしばらく黙り込む。
自分の立場と欲望が頭の中で葛藤を繰り広げ、その結果出た答えは…
「……いいぜ」
「おおっ、欲望に負けよった!」
「なッ…、うるせェよ!!」
楽しげに笑いながらからかう忍足の声に、跡部は顔を赤くして頭まで布団をかぶってしまった。
「うわ〜、めずらしく照れてるし」
「……お前まで入ってくるなよ」
「ええやんか」
布団に潜り込んできた忍足は、跡部にすり寄るとピタリと額を合わせる。
暗い上に近すぎて、互いの顔がまったく見えない。
それが勿体なくて、跡部が布団を捲り上げるとどちらからともなく唇を合わせた。
「…ん…、なぁ…跡部」
「ん…?」
「……あした、せっかくやし、どっか行く…?」
「……あー…」
跡部は忍足の顔中に唇で触れながらしばらく考えると、首を横に振って短く答えた。
「いい」
「…ええの?せっかくやのに」
見つめてくる忍足に、跡部はその頭を優しく撫でてた。
「ああ、ここでこうしてる方がずっといい」
「……せやな、俺も…その方がええな」
忍足はニコリと微笑み、それに応えて跡部も笑みを返し、忍足の額にそっとキスをすると腰に腕を回して抱き寄せた。
「そろそろ寝るか」
「ん、…おやすみ、跡部」
「ああ…」
跡部の腕に抱かれながら、忍足は目を閉じる。
…外に出てしまえば、堂々と“恋人らしく”は歩けないから。
だからそれなら、二人だけの部屋でこうしていっぱい抱き合う方がいい。
…こういう時は少しだけ、自分が女だったら良かったのにと、思ってしまう。