?*忍

□06'タロ誕
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頭にたくさんの疑問符を浮かべる忍足を見て、慈郎は悪戯が成功した子どものような顔をする。

「朝にメールしたんだよねー」

「朝……お前、アドレス知ってたん?」

「んーん、忍足のケータイ借りた」

「ッな…!!」

朝練の時、ラリーが終わった忍足がトイレに行った隙にテニスバックの中から携帯を拝借したのだと
、慈郎は言った。
まあ、それはいいとして。

「ジローお前……余計なもん見てないやろな…?」

「んー?あ、タロちゃんのメールってさ、素っ気なく見えるけど愛を感じるよね」

「ッ…!!」

メールをするついでに盗み見た、榊からの受信メールについて語り出す慈郎に、忍足は怒りと羞恥で
真っ赤になった。

「っ阿呆!!このアホーっ!!」

「ッわぁ!!忍足!?」

忍足は両手で慈郎の頭をぐっちゃぐちゃに掻き回す。
その騒ぎに隣りの跡部たちも気がつき、何事かと二人を見た。

「なになに、忍足ご乱心?」

「あー…、こいつ、ずっと恋人に会ってないらしくて、苛ついてんですよ」

「へぇ!なら会ってきなよ忍足、試合なくなっちゃったしさ」

何も事情を知らない部長が呑気にそう言い終わると同時に、忍足は勢いよく立ち上がった。その横で
は髪の毛がますます複雑に絡み合った慈郎がゼエゼエ言っている。

「俺は行かへんッ!!」

「え、行きなよ、せっかくヒマなのに」

「部長の言うとおりだぜ」

忍足は二人をキッと睨み付ける。だが二人とも動じなかった。無神経さがそっくりだ。

「行かへんもんは行かへん!!」

「行ってこいよ、最近調子が悪かったのも、会えないせいなんだろ?」

「あー確かに、調子悪そうだったね」

「お前単純だから、会えば調子も戻んだろ。行ってこい、部長命令だ」

「いや跡部、部長は俺だから」

「あ…、つい癖で…」

そうして笑い会う二人の横で、怒りにワナワナと震える忍足は、

「〜っもうウッサイねんお前らァ!!もう帰るわボケェ!!」

そう叫ぶと大股で去って行った。
コート中が暫く静まり返る。



「……なんか怒られちゃった、おれ部長なのに」

「…部長、あっちで呼んでますよ」

「あーあー、もう跡部が部長になってよー」

「あんたがサッサと引退してくださいよ」

「やなこった〜」

ヒラヒラと手を振ってコートへと下りて行く部長を見送って、跡部は溜め息を吐いた。

「…で、どうすんだ。忍足のヤツ帰ったぜ」

慈郎に聞くと、彼は必死に髪型を直そうとしていた。跡部にはすっかり元通りに見えるのだが、慈郎
はまだくるくる加減が気に入らないらしい。

「うーん……しょうがないから俺1人で行ってくるよ」

「そうか……ま、俺からもおめでとうございますって伝えておいてくれ」

「おっけー」

ちょうど話がまとまったその時、コートから跡部を呼ぶ声がした。どうやら跡部の試合の番が回って
来たらしい。

「跡部の試合みてから行こっと」

「あーん?監督待たせてンじゃねーのか」

「いいよ、メールしとくし。跡部のケータイ貸して」

「ああ、その中に入ってる黒いやつだ」

それだけ言うと跡部はコートに下りて行った。
慈郎は跡部のテニスバックを開け、四つある携帯電話のうちから黒いそれを取り出した。
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