?*忍

□06'タロ誕
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「ちゃんとメールしたっちゅうねん…」

「あ、ちょうど日付が変わった頃に?」

「…そうや、返事もちゃんと来たで」

「ふぅん、なんてメールしたの?」

「そんなん教えるかアホ!」

赤くなる忍足を見て慈郎はニヤニヤと笑い、それを見て忍足はますます赤くなる。

「つーかよ、なんでメールなんだよ……電話でいいだろ」

「あ、言われてみれば」

突然会話に混ざってきた跡部の言葉に慈郎は頷いた。
忍足はと言うと、真っ赤な顔をして言葉に詰まっている。
その様子を見て、跡部はニヤリと笑った。

「どうせアレだろ、声を聞いたら会いたくなるから…、とかよ?」

「…ぅっ…」

跡部のインサイトにより図星を突かれた忍足は小さく唸り、膝を抱え込む。

「あはははっ、忍足ったら乙女〜」

「……死にたい……」

沈む忍足の背中をバシバシ叩きながら、慈郎はひとしきり笑うと滲んだ涙をグイと拭った。
そして、ポンポンと優しく忍足の背を叩く。

「やっぱり会いたいんじゃん、…行こうよ」

「…せやから無理やて、俺は試合入っとるし」

今日は2試合の予定で、相手は二人とも二年生。平部員だから楽勝だとは思うのだが、気は抜けない


「しばらく会えへんて、メールでも話したしな」

忍足は「よっこらせ」と年寄りくさい掛け声とともに立ち上がった。

「さて、そろそろ俺の番やろうから行ってくるわ」

「…ちぇっ…」

伸びをする忍足を慈郎は恨めしそうに上目で見つめるが、どうやら諦めたらしい。それ以上は何も言
わなかった。

「まぁ…おおきにな、ジ――」

「忍足ーっ!!」

「へ?」

突然、コートの方から大声で呼ばれ、忍足だけでなく慈郎と跡部も声のした方を向いた。
手を振りながら三人が座る観戦席の下まで走ってくる声の主は、二年生の現部長だった。ちなみに中
等部の頃も、跡部の前に部長をしていた人だ。

「部長?な、なんですか?」

「忍足悪い!お前の相手さぁ、棄権しちゃった」

「……ハァ!?」

「いやさ〜アイツらサボりがちだったんだよ。やる気ない奴等でさ、お前が相手だって言ったら帰っ
ちゃった」

「な、なんですかソレ!」

「良かったじゃねーか、雑魚と戦う手間が省けて」

「おっ、跡部言うね〜」

跡部の事実だが失礼極まりない言葉に、部長が楽しそうに同調する。
部長としては、ここは怒るべきだと思うのだが、この人は少し砕けた性格をしていた。
現部長と次期部長になるであろう跡部の、楽しそうに人をけなし合う様子を眺めながら、忍足は大き
な溜め息を吐いた。

「はぁ……拍子抜けやわー…」

張っていた気が一気に抜けて、忍足は力なく腰を下ろした。
突然訪れた暇な時間。
誰かと打ち合うにもコートは空いていないし、どうしようか。

(……行こう…かな……)

あの人に会いに、久しぶりに中等部へ。
ついでに日吉たちの様子も見てこようかなどと考えていると、横からの視線を感じて忍足はハッと我
に返った。
慈郎がニヤニヤとしながら自分を見ていて、忍足は緩みかけていた顔を引き締める。

「な、なんや?」

「監督のトコ、行こう?」

にっこりと笑顔で言う慈郎に、忍足は気まずそうに顔を逸らして自分の足下を見つめた。

「…でも、いきなり行ったら迷惑かもしれん…」

「それなら大丈夫だよ、監督には言ってあるし」

「え……」

慈郎の意外な言葉に忍足は目を丸くする。
昨日榊とメールをした時にはそんなこと一言も言っていなかったし、一体いつそんな話になったのか

それに、慈郎は榊の携帯番号もアドレスも知らないはずである。
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