?*忍
□a parting love
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***
嫌われているのではないか?
そんなことを考えて、勝手に傷つく自分がいる。
「侑士、またボケッとしてる」
「……ああ、疲れてるんかな」
目の前にはハンバーガーを頬張る岳人。今食べているのでもう三つ目だ。
「…よう入るなぁ」
そんな小さな体で…とは、絶対に言えないが。
「育ち盛りだからな!」
元気な相方の姿に微笑みつつ、頭の中ではまた、後輩のことを考えていた。
鳳長太郎のことを。
ここに来る前の部室でもだが、鳳は俺と目を合わせない。俺と話をするときは必ず視線を少し下げるのだ。
それどころか最近は、話をすること自体が少なくなったように思う。
忍足は、鳳に避けられている、嫌われているのかも知れないと思っていた。
「…らしくなぁ…」
岳人に聞こえないくらい小さな声で呟くと、溜め息を吐く。
普段の自分ならば他人に嫌味の一つや二つ言われようが気にしないというのに、鳳という一人の後輩に対しては、これほど精神を削っている。
これはつまり――
「……好き…、…なんか……もしかして…」
鳳のことが。
「…侑士、ケータイ鳴ってる」
「え?……あ、ほんまや」
岳人が指差す先、テーブルの上で携帯電話が耳障りな音を立てて震えていた。
「……家や」
「大阪?」
「ああ。……もしもし」
相手は姉だった。
久しぶりに聞いた声は、いつもの柔らかいものだったが、少し様子がおかしかった。
***
「おい、忍足はどうした?」
朝の部室、部長の言葉にピクリと体が反応する。
俺も気になっていたから。
跡部に聞かれた岳人は首をひねる。
「監督から聞いてねーの?」
「ああ、何も」
「今はたぶん…、新幹線の中かな。アイツ実家に帰るんだ、三日くらいあっちに居るって」
――お父さん、倒れたから…
そう言った姉の声は、少し疲れているようだった。
忍足の父親は大学病院で医者をしている。
もともと忙しかった父親は三年前、忍足がまだ小学生の頃、妻が亡くなり益々仕事に熱心になった。
「たいした事はないねん、ただの過労やから」
予定より一日遅れの四日後に帰ってきた彼は、皆のいる部室で、少し困ったような笑顔で話した。
「でもな…」
中学卒業後、忍足は大阪へ帰ることになった。
あっちの高校に行くことになったのだ。
「姉ちゃんにばっか、大変な思いさせたないし…」
それを聞いた向日先輩は、イヤだイヤだと今にも泣きそうな顔で忍足先輩に縋りついていた。
ジローさんも、跡部部長までも、みんな寂しそうな顔で。
俺は、呆然と立ち尽くすだけだった。
…もう、
彼の姿をただ見ていることすら、できなくなってしまうのだ。
卒業式は、一ヵ月後に迫っていた。
それは長いようでとても短い期間で、俺は気持ちの整理もつかないまま、どうすることもできないまま、三月を迎えてしまった。