?*忍

□僕たち男のコ。2
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「なんで赤ぅなってん…、なぁ……なんで?」

片手で顎を掴み正面を向かせれば、宍戸はますます真っ赤になって、目を瞑った。

「頑固やなァ…」

頑なまでに自分の顔を見ようとしない宍戸に、なにか可愛らしさを感じて忍足は小さく声を立てて笑う。

「なぁ自分、ホンマに好きなヤツ居れへんの」

「な…?……い、いねェけど…」

「…へぇ?」

予想通りの返事。
忍足は宍戸の顎を放した。

「………忍足?」

顔が自由になっても宍戸は正面を向いたまま。
目は閉じたままであったが、宍戸はなにかが迫ってくる妙な圧迫感を感じた。


「おい…忍足…?………なんか言え―――」

恐る恐る、うっすらと目を開けた宍戸の視界は真っ暗だった。
すぐに、唇に柔らかい何かが押し当てられる。

「っ、ん…!?」

宍戸は驚きに目を開け、体は硬直して動かない。


忍足にキスをされている。

働かない脳味噌は、それだけははっきりと認識した。
そのキスの時間はほんの数秒で、しかし緊張した頭と体にはとてつもなく長く感じられた。


「……はぁ…」

「っ……おま…ッ…」

唇が離れ、忍足の顔が漸くはっきりと見えるようになる。
宍戸は口を開くも何を言ったらいいのか分からずに、ぱくぱくと動く口は音を紡がず間抜けに開閉するだけだった。


「なぁ宍戸、嫌やった?」

「……な……にが…?」

「俺とキスすんの、嫌やった?」

「なっ……」

赤くなる目の前の顔に、忍足は苦笑を浮かべる。

「気持ち悪いとか思た?」

「きっ…、気持ち悪い……とは思わなかった…けど…」

「けど?」

「おかしいだろ…、なんでお前にキ、キスとかされなきゃなんねーんだよ…」

宍戸のその言葉に、忍足は盛大な溜め息を吐いた。
なんだよとでも言いたげな目を向ける宍戸の額をペチッと叩く。

「いてぇな…、…ンだよ」

「…お前は俺の気持ちにまで、気付かんフリするんやな」

「……意味わかんねーし」

ふいっと再び逸らされる顔。しかし忍足は、今度はそのまま言葉を続ける。


「おかしなことなんて、何もあらへんよ」

本当はお前だって、気付いている筈。


「俺は宍戸のことが好きやからな」


驚きもしない機嫌が悪そうな横顔がその証拠だ。
それでも宍戸は、まだ認めない。


「なに言ってんだよ…、俺は男だぜ?」

「そんなん知っとるわ、そんなアホちゃうで俺」

「じゃあ…なんでだよ、……マジ意味わかんねェ…」

両手で顔を覆ってしまった宍戸に、忍足は苦笑を零す。

「言っとくけど、俺ホモとちゃうで。女の子大好きやし」

「……知ってるよ、散々遊びまくってたじゃねーか。……最近おとなしかったけど」

「ん…、好きなヤツできたしな」

「…………」

ビクリと、宍戸の体が小さく震えたのが分かった。


「女の子大好きやのに、宍戸が好きになってもうてん。宍戸と一緒に居りたい思うし、さっきみたいにキスしたい思うし……耳赤いヨ宍戸くん」

「標準語、気色ワリィっつの」

相変わらず顔を隠したままだが、いつもの調子で返してくる宍戸に少し安心した。

「……まぁ、そういう事やから。知っといてな」

「………ん……」

宍戸が小さく頷いたのと同時に予鈴が鳴った。
忍足は宍戸の腹から立ち上がり、伸びをする。

「サボろう思っとったけど、つぎ数学やしなー…」

「…………」

「……宍戸はどうする?」

「…サボる」

「そか…、ほな部活でな」

「ああ…」

結局最後まで顔を見せないままの宍戸に小さく溜め息を吐いて、忍足は屋上を後にした。

残された宍戸は、膝を抱え込んで小さく小さく蹲る。




“知っといてな”


そんなこと言われなくても、宍戸は忍足の自分に対する気持ちを知っていた。

…いや、知らない筈がないのだ。
ついこの間、告白されているのだから。
“女やったら”と、余計な言葉が付いていたが、そんなの男同士であることの後ろめたさへの、幼稚な言い訳でしかない。


「はぁっ…くそ…ッ、……心臓いてェ…」


忍足はその言い訳を脱ぎ捨てた。

……俺は―――




「……どうしろって言うんだよ……」


あの日を思い出す度に、胸が疼いていたというのに。
唇までもが、チリチリと熱くなる。


もう、気付かないフリなど何の意味も成さない。



続。
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