?*忍
□僕たち男のコ。2
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「つまらん奴ちゃの〜…激つまらん」
「ほんと、急におとなしくなっちゃって……激ウザ」
悪口を言っても、もう寝てしまったのか、ひたすら無視を決め込んでいるのか、なんの反応も返さない。
向日はふぅと溜め息を吐き、弁当の入った袋を持つと立ち上がった。
「あーあ、俺もう教室戻ろーっと」
「おう、帰れ帰れ」
「そこだけ反応すんなよ!」
扉に手を掛けていた向日は宍戸の頭を軽く蹴り飛ばす。さすがに宍戸は起き上がり、向日と掴み合いを始めた。
「頭はやめろ!頭は!!」
「はぁ?それ以上バカになりようがないんだからイイじゃん!」
「元気やねぇ、二人とも」
ぎゃあぎゃあと騒がしい隣りなどお構いなしに、忍足はペットボトルの緑茶を啜る。
「えぇ天気や…、こりゃ5時間目もサボり決定―――……おぅ?」
隣りがあまりにも騒がしくて聞こえにくかったが、忍足は自分の尻から何か歌声が聞こえるのに運良く気付いた。
それは六甲おろし、忍足の携帯電話の着うただった。
「はいはいはい…誰ですか…、と」
携帯を取り、画面を開いてメールの相手を確認。そこには女の子の名前があった。
「…………なぁがっくん」
「大体なんで前髪がVなんだよッ!」
「激ダサってなに?激って何なの?それこそダサいんじゃないの?」
「わぁ、まったく聞いてへんし」
ははは、と忍足はひとり乾いた笑い声を上げ、さっきまでボンヤリしていた顔はゲンナリした顔に変わり、携帯に視線を戻した。
「…ユカちゃん…」
「なに、ユカがどうしたの?」
「うわっ、がっくん早ッ!」
ついさっきまで宍戸の腹に跨り胸倉を掴んでいた向日が、横にぴたりとくっつく。
何となく忍足が呟いたメールの相手、向日の彼女の名前に反応したらしい。
「愛やね…」
「愛だよ?ユカがどうしたんだっての」
「なぁなぁ、俺のこと放っておくとかヤメテくんない?」
急に一人にされて寂しくなった宍戸が向日の横にぴたりとくっつくが、二人は携帯にしか目を向けない。
「なんかなぁ、がっくんの携帯に電話したんやけど、全然出ぇへんてメールきた」
「げっ、マジ…!」
「なー、俺も仲間に入れろよ」
そんな宍戸の声も完全無視で、向日はズボンのポケットから携帯を取り出す。
「うわ本当だ……何回も来てる…」
「教室もどった方がええんちゃう?」
「うんー…その方がいいかも、謝ってくる」
「…なぁってば」
「はいはい亮ちゃんっ、部活でいっぱい構ってあげるからっ」
向日は宍戸の頭をガシガシと撫で、じゃあなと言うと颯爽と去って行った。
「ガキ扱いかよ…!」
「あははっ」
宍戸はぐしゃぐしゃに掻き乱された頭を何となく手櫛で整える。
「……治った?」
「…ちゅうか……短髪やから、もともとそんな崩れてへんし…」
「……るせー」
向日が居なくなり、二人きりの屋上は急に静かになってしまった。なんだか気まずいような雰囲気だ。
「……眠ィ…」
「…………」
呟いた宍戸は忍足に背を向けて寝転がった。
忍足は黙ってその背中を見つめる。
――そういえばあの日以来、二人きりという状況になったことが無い。
偶然と言ってしまえばそれまでなのだが、宍戸も、何か意識していたのかもしれない。
向日に好きな人ができたんじゃないかと話を振られて、急におとなしくなったのも、
今、わざわざ背を向けて寝転んだのも、
何かを意識しているのかもしれない。
胸がまた、疼き出す。
「なぁ……宍戸」
「………あ?」
「…………」
振り向かない。
なんでや?
俺の顔見んの、恥ずかしいんか。
「っ、おい!?なんだよ…ッ」
宍戸は、自分の体を仰向けにして腹に跨ってきた男に驚き目を見開いた。
ニッコリと取って付けたような笑みが視界に飛び込む。
宍戸はゆっくりと横を向いた。
「……なに……してんだよ」
「顔逸らすなや」
「…っ…」
宍戸の顔が赤く染まる。
逸らされた顔の横に手をつき、忍足は笑みを濃くした。