?*忍
□僕たち男のコ。2
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ああ、ほら。
また疼いた。
きっとこれは、そういうこと。
『僕たち男のコ。2』
なんだろう、この感じは。
(ドキドキ……いや、……きゅんきゅん…?)
…きゅん、て。
随分と乙女な響きだなと、しかしその表現がピッタリ嵌まる今の心境に、忍足は苦笑を零す。
なんてことはない、ただ一人、四時間目をサボって屋上のコンクリートに空を眺めて寝転がっているだけだ。
それだけなのに、なぜか心臓がきゅんと締め付けられる。
「あー……なんやねん、コレ…」
両腕を空に突き上げて、手のひらで太陽を遮る。
…本当は分かっている、なんで心臓が締め付けられるのか。
そんなのは簡単なことだ。
この場所で、あの日を思い出す度に、
ああ…ほらまた。
「…つまり、そういう事なんやろなぁ…」
ふむ、と、一人納得して頷くと、忍足は起き上がった。
ちょうどチャイムが鳴り、四時間目の終わりと昼休みの始まりを告げる。忍足は持って来ていた弁当を広げた。
数分後、キィ…と音を立てて背後の扉が開いた。
「おー、がっくんや〜」
「げっ侑士」
「あっひどい!げってなんやねん!」
むぅっと膨れて見せると、岳人はケラケラと笑い、忍足の隣りに座って弁当を広げ始めた。
「つーかまたサボってたのな、侑士」
「んー、やってなぁ、国語苦手なんやもん」
「うわ〜…嫌味だ嫌味。苦手とか言って、毎回90以上は取るんだぜ」
最後の声は岳人ではない。実は岳人と一緒に屋上に来ていて、岳人とは反対側の忍足の隣りに座っていた人物のものだ。
「なんや宍戸、居ったん?」
「あ…ひどくね?それ…」
ハムとチーズのサンドイッチにかぶりつこうとしていた宍戸は、小さく体育座りをしてシュンとする。
「拗ねんなや〜、ウザいから!」
「ひでっ!!」
「宍戸ウゼ〜!」
「向日まで…!?」
岳人と一緒に思う存分宍戸をいじめながら昼食を食べ、食べ終えたあとは三人で他愛ない話をしながらダラダラ過ごす。
「がっくん、彼女とはうまく行っとんの?」
「んー、まぁね」
思春期の男子たるもの、やはり話題はその手のものに行く。
そして現在、三人の中で唯一の彼女持ちである向日が話題の中心になるのはいつものことだ。
「もう半年経つよなぁ、長くね?」
「まだラブラブやんなぁ」
「おう、羨ましいだろ」
「…うらやましー…」
そう言いながら宍戸は大の字に倒れ込む。
向日はそんな宍戸を忍足の横から覗き込んだ。
「やけに素直じゃん宍戸。いつもは激ウゼェとか言うくせに」
「…だってよ、羨ましいもん」
「ぶはっ、もんやて!」
一人吹き出した忍足を無視し、向日は何か閃いた様子。
ニヤリと意地悪な笑みを浮かべる。
「はは〜ん……さては宍戸…」
「んだよ…」
「好きなヤツできたんだろ!!」
「えっ!そうなん?」
実に楽しげに身を乗り出す忍足と向日に、当の宍戸はぽかんと呆けていた。
しばらくしてそれは呆れ顔に変わり、はぁ、と大きな溜め息を吐く。
「なんでそうなるよ…」
「だからぁ、好きなヤツができて、その子と本気でイチャつきたいな〜…って思うようになったから、とかさ」
「あー、ありそうやなぁ、それ」
「生憎…まったくねぇよ…」
宍戸はつまらなそうに盛大な欠伸をした。
そして「ノリが悪い」と文句を言うウルサイ二人に背を向けるように寝返りを打ち、そのまま黙り込む。