?*忍
□忍足クンのハジメの災難
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「忍足、いいものがあるから家来いよ」
「…べつにええけど、いいもん?」
「ああ、いいもの…」
優しい笑みとその言葉に、付いて行ったが運の尽き。
《忍足クンのハジメの災難》
「なぁ、ええもんってなに?」
「あーん?いいからさっさと入れよ、もうすぐ見れるだろが」
「…まぁな」
でも気になるやんか…と忍足はブツブツ言いながら跡部の自室に入る。
見慣れた部屋をキョロキョロと見回しながら中を進むが、とくに気になるものは無く、忍足はいつものようにソファに座った。
「……あっ」
フカフカのソファが重みに沈むのと同時に、忍足は声を上げた。
「これ…っ」
忍足は目の前のテーブルに置かれていたものを手に取り、それを見つめる瞳を珍しくキラキラと輝かせた。
跡部が隣りに腰を下ろし、忍足のその様子を見て微笑む。
「最近おまえ、見たい見たいってウルサかったからよ」
「せやねん、めっちゃ見たかってん!」
「たまたま見つけたから買ってきた。やるよ」
「ほんまに?もろてええん?」
「ああ」
頷いて見せると、忍足は飛び付くように跡部の首に腕を回し、頬にちゅっとキスをした。
「おおきに景吾…」
「べつに、そんなに感謝される事でもねェよ」
DVDの一枚でこんなにサービスをされると思わなかった跡部は、苦笑しながら忍足の頭を撫でる。
こんなに喜ぶほどに恋愛映画を見たいと思う気持ちは、興味のない跡部には到底理解しがたいことだが、こうやって素直に喜ぶ忍足の姿は可愛いし、なかなか見れるものでもない。
「いま見るか?」
「え、見てええの?」
「ああ」
そして、一緒に見てやると更に喜ぶことも知っているから、どれほど興味がなくても付き合ってやろうと思うのだ。
「んー…でも」
「あん?」
「今日はやめとく…」
そう言うと忍足は、甘えるように跡部に擦り寄った。
意外な返事と行動に、跡部は僅かに目を見開く。明らかに忍足は誘っている。
「なんだよ…DVD一本でえらいサービスじゃねェか」
「べつに……たまたまそーゆう気分やねん」
「へぇ…?なら、遠慮なく…」
まさかの展開に、跡部は嬉々として忍足に口付ける。
忍足も夢中で跡部のキスに応えた。
「んん……ふ…っ…景…」
「っ……忍足、少し我慢しろ」
「…なに?」
「ベッド行くぜ」
「…っ!」
ふわっ、と軽くなる体に忍足は一瞬驚きの表情を浮かべたが、すぐにそれは苦痛の表情に変わった。
「っく、苦しい景ちゃん…っ!」
「我慢しろって」
「我慢ってこれのことかいな!」
忍足は跡部の肩に担ぎ上げられたため、腹を肩に圧迫されて苦しいのだ。
しかも頭に血が上るし余計に苦しい。
それを訴える忍足を無視して跡部はスタスタと歩き、ベッドまで運ぶとゆっくりと下ろした。
「…お姫様抱っこやったら苦しくないのに、きしょいけど」
「悪いな、肩に担ぎやすい体勢だったんだよ」
「…まぁな…」
仰向けに寝転ぶ忍足が腕を伸ばし、跡部はそれに答えて忍足に覆い被さると、伸ばされた腕は背中に回った。
さっきの続きと唇を合わせ、性急に舌を絡み合わせる。
「ふ……っん…」
口内を跡部の舌に撫で回される気持ち良さに、忍足は早くも蕩けたような顔で、落ち着きなく下肢をもぞもぞと動かした。
跡部もその様子に気付き、音を立てて唇を離すと、忍足のベルトに手を掛ける。
「脱がすぜ?」
「ん…」
コクンと忍足が頷くのを確認し、カチャリと音を立てながらバックルを外した。
「珍しいな……いちいち聞くん…」
「そうか?」
「おん…」
フックを外し、ファスナーを下ろし、スラックスと下着の縁を掴む。
「腰、上げろ」
「ん」
腰とシーツの隙間を通して、あとはスルリと足から抜き取る。
「…なんや今日、優しない?」
「あん?俺はいつだって優しいだろうが」
「え〜…?まぁ…な」
しかし、何かいつもの優しさと違うのだと、忍足は考え込む。
放置状態の跡部は、左右に開いている忍足の脛から膝までをサワサワと撫でるが、嫌そうに振り払われてしまった。