?*忍
□夢から醒める
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夢を見る。
夕日の色に染められた、見慣れた教室。
そこには俺と、君だけがいる。
「あ…、居った居った」
忍足は、放課後の静かな教室を覗いて呟いた。
オレンジ色の教室、窓際の一番後ろの席にポツンと、ひとり俯せる姿があった。
「おいジロー」
夕陽を受けてキラキラと光る金髪を綺麗だなと思いつつ、忍足は彼の眠る前の席に座った。
「ジロー」
名前を呼びながら何度か体を揺すっても、反応なし。いつもなら大抵これで起きてくれるのに。
腕を枕にして、日差しを避けるように教室側に顔を向けるジローの口からは、すうすうと規則正しい寝息が聞こえる。
「こりゃ…、起きそうにあらへんな」
気持ち良さそうな寝顔に溜め息を吐き、どうしたものかと思考を巡らせるが、無理やりに起こせば慈郎は別人のように機嫌が悪くなるし、もう跡部に怒られるしかないかとまた一つ、今度は諦めの溜め息を吐いた。
今は部活中で、忍足がここに来たのは、慈郎を探してこいと言う跡部の命令のためだった。
「気持ちよさそうに寝くさって、ムカつくわ〜…」
「…ぅ…っ」
腹癒せにと鼻を摘み上げても、不快そうに唸るだけで起きる気配は全くない。
「…ホンマよお寝とる、…楽しい夢でも見とるんかな」
ああ、やっぱり今日も君がいる。
ガラリと教室のドアを開けると、窓際に立つ君が俺を呼ぶ。
「ジロー」
優しい声に呼ばれるまま、俺は君の前に立ち、逆光で見えなかった君の顔がやっと見えるようになる。
「ジロー」
「なに…?」
優しく微笑んで、ただ名前を呼んで。
それだけでいつもなら目が覚めるのに、今日は続きがあるらしい。
「わっ…」
「ふわふわや」
手が伸びてきて、くしゃくしゃと頭を撫でられる。現実の忍足も俺の頭を触るのが好きだが、この忍足も同じらしい。
楽しそうに俺を撫でる。
「…おしたり…」
そして俺も、優しいその手が大好きだ。
夢の中なのに、ウトウトとしてしまう。
「寝たあかんよ?」
「なんでー…」
「部活行かな、跡部に怒られてまう」
「それは嫌…」
「せやろ?ほな、そろそろ起きよか」
そういって離れようとする手を、俺は咄嗟に掴んでいた。
忍足は驚くこともなく、微笑んだまま俺を見つめる。逆に、俺が自分の行動に驚いていた。
「どうしたん?」
「え…、……どうしたんだろ…」
「あは、なんやそれ」
くすくすと笑う忍足に、俺は頭を掻いた。
…名残惜しくて、咄嗟に掴んでいた。
もう少し撫でていて欲しかった。
忍足に触られると、とても心地がいいから。
「…なんでやろね」
「……え……」
なんで。
忍足に触られると心地がいいのは。
「…なんで?」
「さぁな」
「……教えてよ、知ってるんでしょ?」
「自分で考えや」
「……けち」
相変わらず忍足は微笑んだままで、絶対に教えてくれそうにない雰囲気だ。
「…じゃあさ、これくらい答えてよ」
「ん?」
慈郎はいつも疑問に思っていたことを聞いてみることにした。