?*忍
□忍足クンの災難
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「なぁ、侑士んとこ泊まり行ってええ?」
「おう、構へんよー」
それは久々の再会と言うこともあり、楽しい休日になるはずだったのに。
《忍足クンの災難》
「なんで跡部が居んねん…」
「ご、ごめんな…、…謙也が来るさかい自分ち帰れ言うたんやけど…」
「バカか。お前をこんなエロガキと二人きりにできるワケねーだろ」
「なっ…、誰がエロガキやて…?」
バチバチと火花を散らし始めた二人の間で、忍足は盛大に溜め息を吐いた。
「まーまー落ち着けや二人とも!」
「…ふんっ、まあええわ。お前なんぞ恐るるに足らんしな」
「ァア゛…?どういう意味だよコラ」
「だーかーらっ!落ち着けって言うてるやろ!」
胸倉を掴み合い出した二人に忍足は叫ぶが、当の二人は全く聞く耳持たず。忍足は再び大きな溜め息を吐くと、勝手にせぇと言い捨てて放っておくことにした。
一人床に腰を下ろし、テレビでも観ようとリモコンを掴む。
…が。
「侑士の処女を奪ったんは俺やしな!」
「―ッ!!?」
自慢げに言う謙也の声に、手に取ったリモコンが滑り落ち、ガシャンと音を立てた。
「なっ、なに言いだすん謙也!!」
「そうだったのか…、どうりで余り痛がらないと…」
「殺すで跡部…、めっちゃ痛かったっちゅうねん…!」
「冗談だよ」
ふん、と鼻で笑う跡部に怒りは募るばかりだが、跡部が嫌味なのはいつものことなので無視することにしよう。
それより今は、こっちが問題だ。
「謙也……なんでそないな嘘吐くん?」
なるべく優しく、諭すように問うと、謙也はいかにも拗ねていますと言う風にムッと頬を膨らませた。
「やって…悔しいやんか!」
「…なにが?」
「俺の方がお前ンことよう知っとるし、毎日のように一緒に風呂入ってた仲やし…」
「ンだと…?俺だってまだ一緒に入らせてもらってねェんだぞ!!」
「黙っとれ跡部」
「ずーっと前からお前ンこと好きやったんに、いきなり跡部なんかに取られたんやで…ッ」
「オイ……“なんかに”ってのは失礼だろ…」
「跡部は黙っといてっ!」
再び謙也に掴み掛かろうとする跡部をキッと睨み付ける。
跡部は不服そうに舌打ちをし、膨れながらではあるが黙り込んだ。忍足には弱いのである。
「…謙也……ごめんな?俺、お前の気持ちに全然気付かへんかった…」
「…ええねん、侑士は悪くないねん。俺がちゃんと伝えなかったのが悪いんやから…」
「謙也…」
忍足は少し感動していた。
俺の従兄弟はなんてイイ奴なんだろう、と。そんなことは十分知っていたが、再確認したのだ。
跡部なんか自分勝手の我が儘野郎だし、謙也と付き合っていた方が俺は幸せになれたんじゃないだろうかとも、一瞬思った。
…けれどあくまで一瞬だ。
忍足は跡部と付き合っていて不幸だと思ったことはなかったし、それは跡部のことが好きだからで、跡部からも愛されているという自覚があったからだ。
だがしかし、インサイトを得意とする跡部は、この一瞬の浮気心を見逃さなかった。
「…従兄弟同士、随分と仲がいいもんだなァ」
冷ややかに二人を見据える瞳、静かな怒気を含んだ声。そして、口許には得体の知れない笑み。
…ヤバい、と。
忍足は体が冷たくなっていくのが分かった。
跡部を本気で怒らせてしまったらしい。
「…け、景ちゃん?落ち着いて…?」
「今更媚びんじゃねェよ、…もう遅ェ」
忍足は精一杯可愛いと思われる声(自分にとっては鳥肌ものだが)を出してみたが、どうやら全くの無意味だったらしく。
腕を掴まれ強引にベッドへと連れて行かれる。
「ちょ…ッ!何すんねん跡部!」
「うるせェ」
「あっ!」
ドサリとベッド上に乱暴に放り投げられ、自分もベッドに乗ってきた跡部に背後からはがいじめのような形で抱き起こされる。