?*忍
□世界一強い恋人
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俺にビビることなく好き勝手な言葉を吐いて、からかったりだとか。
他の奴なら殴ってるところだが、不思議とそんな気が起こらず、いつも許してやってしまう。
…コイツ可愛いじゃねーの、とか。そんな風に思ってしまうのは、末期だと、自分で思う。
「…また居るし」
「あ?悪ィかよ」
夕方、帰宅した忍足を迎えてくれたのは、親でもおかえりなさいの言葉でもなく、部屋に立ち込める煙とギロリと睨みつけてくる瞳。
忍足は溜め息を吐き、自分の家でもないのに我が物顔でソファに座る亜久津の隣に腰を下ろした。
「ピッキングはやめぇや」
「ンなことしねェよ、玄関の植木鉢の下にあった鍵で入った」
「…おかん…、ンなとこに隠すなや…」
母親の有りがちな鍵の隠し方に、忍足はまた一つ溜め息を吐いた。
「…いつから居ったん?」
「学校で昼飯食って、その後」
「へぇ…、ま、午後の授業サボろうがココに来ようが、それは構へんけどな」
「ッ!」
ヒュッ…と、亜久津の眼前を忍足の手が切り、煙をふかしていた煙草を素早く取り上げた。そして、亜久津が勝手に冷蔵庫を漁ってケーキを食べたときに使ったのであろう皿に煙草を押し付けて火を消した。
「テメぇ…」
「今おかんが居らんかってなぁ、煙草の匂いは残んねん!」
鋭く睨んでくる亜久津に、忍足は怯むことなく食って掛かる。
後で大変なのは自分なのだと。
親が帰ってくる前に、窓を全開にして、必死に煙を外に追い出して、布にシュシュッとファ○リーズして、それはもう大変なのだ。
そう力説すれば、次第に亜久津の睨みは弱まり、キッと吊り上っていた眉も自信なさげに歪む。
「…お、俺も手伝ってやるから……吸わせろ…」
「ぶはっっ!な、なんやソレ!!」
まさかの手伝ってやる発言に忍足は吹きだした。
「なに笑ってやがんだよ…!!」
「い、いや……あんまり、かわええこと言うもんやから…っ」
「かわいい…!?」
怪物と呼ばれる亜久津仁に、可愛いなどと言えるのは忍足侑士、この男ぐらいだ。
「お前な…、今まで何度かその言葉を言われてきたが、おかしいぜ?」
「なんでー?かわええモンはかわええもん。かわええvV」
「……ほんと嫌な野郎だな、お前…」
そして、その言葉を認めはしないものの、怒りもせずに溜め息を吐くだけで亜久津が許してしまうのは、忍足侑士にだけだ。もしも他の奴が忍足と同じ事をしたとして、その人物はその時点で息絶えることだろう。
「ま、俺ん家では禁煙っちゅうことで」
「……ッチ…、マジかよ…」
「その代わりとしては、物足りへんかもしれんけど…」
「あ?」
意味深な忍足の言葉に、亜久津は彼の方を向くと、にっこりと、取って貼り付けたような笑顔と出会った。
「…なん―――!?」
なんだよ、と。そう言いかけたところで忍足の手に襟を掴まれ、グイッと引き寄せられて唇を奪われる。
「……忍…」
「ん…」
忍足の唇が、亜久津の上唇を食むように動く。くすぐったい口づけ。
それは短いもので、ちゅ、と軽く音を立てて離れた。
「………足りねェ」
「あ、やっぱり?」
「ああ…」
忍足はソファに寝転び、その上に亜久津が覆い被さる。
「禁煙させるためにセックスって…キツイやんなぁ」
「俺が口寂しくなる度にだからな……せいぜい頑張れよ」
「…お手柔らかに…」