?*忍

□夏、君と。
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おととい妹が、

「コウタくんと一緒に行くんだ」

とはしゃいでいた。

コウタって、まさか彼氏とかじゃないだろうなと思った。
オレ、軽くシスコン。


それと…、


オレも忍足と行きたいな。

なんて…、そう思った。










『夏、君と。』











「なぁ…いつまでココに居るん」

隣りからの呆れた声。

「いいじゃん、もうちょっと!忍足と一緒にいたいの〜」

「さっきっからソレばっかやん…」

はぁ、と。忍足の口から何度目かの溜め息が吐き出された。

部活が終わってから二時間くらいが経つ。その間、ずっと二人で此所に居た。
小高い丘の上にある小さな小さな公園。遊具も少なくて、滑り台とブランコくらいしかない。
もう誰も居ないその公園の、ぽつんと置かれたベンチに二人は座っていた。


「……眺めええなぁ」

「そだね」

そのベンチに座ると、ちょうど街が見下ろせるようになっている。
目の前に広がる暗闇に、たくさんの光の粒が点々ときらめいていた。

「これを見せたかったとか?」

案外ロマンチストやな、と。意地悪な笑みを浮かべて忍足はからかってくる。

「あー…、ちょっと惜しい」

「…えっ、惜しいんかいな!?」

驚くその顔に、オレは照れ臭くなる。

「っ…もう少ししたら分かるから!もうちょ―――………あ…」

「……あ…」

もうちょっと待っててよ。
その言葉は、ドンッ、という音に遮られた。

二人でポカンと音のする方を見つめる。




「…花火や…」

「……………」


黒く広大なキャンパスに、次々と咲いては、次々と消えて行く大輪の花。


「そういや今日、花火大会やったんやなぁ」

「…知ってたの?」

「ん、今日、岳人と宍戸に誘われてん。」

「……あ、オレも誘われたや」

「断ったんや?」

「忍足も?…なんで?」

「なんで………って…」

忍足は恥ずかしがるように口ごもった。拗ねたように唇を尖らせて、ボソボソと喋る。


「なんや、その………ジローと見たいなぁ、思て……な?」

「えッ!!…マジ!?」

「そ、そない驚くことないやろ!?」

そんなこと言われたって、まさか忍足も自分と一緒に花火を見たいと思っていてくれたなんて、驚きだ。すっげー嬉しい。


「でもなぁ、なんや照れ臭くて……誘えへんかってん」

「おしたりぃッ!!!」

「ぎゃ!?な、なんやお前…!!」

いきなり抱き付いた俺に、忍足は声を上げる。
だってすっごい愛を感じたんだ。

「オレもっ!オレも忍足と一緒に見たいと思ってたんだ!」

「…う、うん?」

「そんでね!オレも、誘うの恥ずかしいなと思ったんだ!」

「…………」

「以心伝心!」

「それとはちょっと違うと思うで、ジロー」

忍足は苦笑いして、俺の頭をぽんぽんと撫でる。


「ちょぉ、情けないやんな?俺たち」

「ん〜…そうだね」

二人して恥ずかしくって、お互いに誘えなくって。
忍足と一緒に、俺も苦笑した。


「しっかし綺麗やなぁ〜、花火」

「きれい、………忍足――」

「忍足のほうが綺麗とか言うたら絶交やで」

「えぇっ…!!」

「嘘やって」



結局は、こうして二人で見れて良かった。
二人で他愛ない話をして、笑いながら見る花火は本当に綺麗だ。



「おしたり、来年も一緒に見ようね」

「んー……今度はちゃんと誘ってな?」

「そ、そっちこそ…!」



来年も、再来年も、いつまでも。
夏の夜空に咲く花を、君と一緒に…




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