ファンタジー小説

□カゲ(クロン×リュート)
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「クロンっ!クロンはどこですっ!!」

廊下から自分を呼ぶ声が聞こえた。
声に反応して出てきた震えを抑えながら部屋から廊下へと出る。
そこには自分を産んだ母親が自分を捜していた。

「はい、ここに…母う…」

クロンは部屋から出て、母親の前へ急ぐ。
母親がクロンの声と姿に反応し、近づいてくるクロンに眼が行くと、近くに止まったクロンを殴りはじめた。
クロンは殴られた反動で廊下に倒れる。
横たわった小さな体に、女とはいえ大人の人間の蹴りが入った。
クロンは必死に頭を両手で抱えて丸くなった。

「今、母上などと呼ぼうとしたなっ!!呼ぶでないっ!!あぁ、厭らしい奴だ。見ているだけで吐き気がする…」

母親はその後も何やら言いながら、クロンを蹴った。
そして、気が済んだのか蹴るのを止め、床でうずくまっているモノを見下ろす。

「リュート様がお部屋にいないのです。捜しなさい。」

クロンを見つけてからそれだけ言うのに20分もかかってしまっていた。
イライラしながらまだ床にうずくまっているクロンをひと蹴りして、その場を後にした。

コツ、コツ、コツ……
ヒールの音が遠くなり、クロンは体に張り巡らせていた緊張を解き、フラフラと立ち上がった。


頭痛がするーーーー
頭は守っていたが、体の痛みも有り意識が遠くなる。
だが、意識をしっかりと持ち直し、言われた通りリュートを探し始めた。
部屋など行く必要はなく、クロンは自然と王宮の庭へと出る。
庭は開けていて、大きく、森を切り開いて王宮を作っているのだ。
庭の奥へ行くと、庭のテリトリーではなく、森となる。
森は、リュート、そしてクロンのテリトリーでもあった。


『大きな木で、お昼寝しているわーー』


風の精がそう囁いた。
この森では自由に精霊がそのままの姿で休んでいる。
リュートが森によく来るせいで、どの精霊もがリュートを知り、クロンのことも知っていた。
クロンがリュートと一緒に居ない時は、親切な精霊が場所を教えてくれるのだ。

『またケガしてるのねーー』

そう言うと、風の精は癒しの風を吹かし、傷を治す。

「あ、ありがとう」

クロンはよく怪我をしているのを知っている精霊は、治してくれたりする。
クロンに魔法の素質があるのを教えてくれたのも、使い方を教えてくれたのも精霊だった。
親切な風の精と別れて、言われた通り大きな木を目指す。木が見える所まで来ると、木の根元に人が居るのが見えた。
動かないのを見ると、根元で眠っているのであろう。
クロンが近づくと寝ている自分の主人であるリュートに声をかけた。
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