NOVEL

□優しい世界
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「もう……三年か」
そう、ライと一緒に暮らし始めてもう三年が経つのだ。
流れは早く、時には緩やかに。
あの日のことからまるで一瞬のようにさえ感じる。仕事に出かける時にするキスと変わらない些細な時間。
もし昔の自分が、今の自分を見たら、さぞかし驚く事だろう。彼と出会う前の自分は、結婚など考えたことも無かったからだ。
だが、気になる人物ならいた。それが、ライだ。
突如、特派に現れた新人のKMFのパイロット。模擬戦ではナイトオブラウンズの一人、ナイトオブナイン ノネット・エニアグラムと対等に渡り合ったその実力と人目を引く容姿には嫌でも噂の的になるだろう。
その後、ライを親衛隊へ入隊させ供に幾つもの戦場を駆け抜けていく内に、彼に惹かれてゆく自分の姿を見た。
そして、いつしかそんな自分はいつ頃からこんな気持ちが芽生えたのかは自分でも分からない程にライに惚れていた――本当にそんな感じだった。
皇族であるからには、いずれ夫に相応しき者と婚約しなければならなかったが、そんなことは常に二の次だった。
その二の次にしていた事が特区設立式典から一年後に、突然目の前に現れた。
それは、ナイトオブナインのノネット・エニアグラムがあの日に保護し、本国でエニアグラム家の養子となったライであった。
その時はいきなりのエニアグラム卿の訪問には驚いたが、それ以上にライからのプロポーズに驚いてしまった。
そして、プロポーズを受け、彼を愛する一人の女と同時に妻として生きることに慣れたとはいえ、まだ少し戸惑いを感じることもある。
彼の子供を身籠り、あと数ヶ月で母親になるのだと実感すると一日のキスの数よりも小さな溜め息の数の方が上回る。
「私は……立派な母親になれるのだろうか」
コーネリアはお腹の子供にそう問い掛けた。少し難しい質問だったのか、お腹の子は何も答えない。
「……そうだな」
母親になれるのかどうかだとそんなことは今考えたって仕方ない。
生まれてきたその子供が幸せな人生を送れるように育てる。ただそれだけだ。
母親に『なれるのか』ではない、母親に『なる』のだ。
コーネリアの問いに答えずに無言で返してきた、お腹の子供の無言の意味をそう解釈して微笑みながら心の中で語りかけた。

ここには彼がいる。
時には強く、時には優しい彼がいる。
だから、安心して生まれてきておいで
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