NOVEL

□LOVE VUILS
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「……まだ、下がらないか」
昼前の十一時頃。千葉は様子を見る為に一時的に訓練所から戻っていた。
腋の下から体温計を摘み取って、表示された数字を見て、静かな声を紡いだ。
乾いた咳が部屋の中に小さく響き、それと同時に千葉が毛布を肩まで掛けると咳を発した人物を見た。
彼女の視線の先には布団に横たわった一人の少女――キョウト六家を束ねる皇家の姫君 皇神楽耶である。
事の発生は数日前に遡る。日本解放戦線の基地を構えるイシカワゲットーに神楽耶が事前の知らせもなしに訪れた。
本人は視察と言っていたが、とある人物を見るたびに駆け寄る姿を見ると別の思惑があると考えざるを得ない。
数日の滞在だとのことで部屋を用意しようとしたが、大所帯がゆえに部屋が足りず、同じ女性であることから自分と同じ部屋で寝ることになることが決まった時、彼女がまるで小さな子どものように頬を膨らませていたのは記憶に新しいことであろう。
違和感を感じ始めたのはその日からだ。日を重ねるうちにどこか無理をしているような姿を目にするようになったのだ。
部屋に戻った時、どうやら、神楽耶も自分に違和感を感じていたらしく、違和感を感じていた自分の容態をようやく千葉に話した所から始まった。
急いで医者に診せたところ、熱は四十度近くあったがただの風邪と言われてほっと安心した。
だが、そこからはよくない。薬を飲んで寝てれば治るという風邪も今日で四日目。熱はそれなりに下がったが、体調の状態はよくなる兆しを見せない。
普段、健康な人間ほど体調を崩してしまうとそれはなかなかに治りにくいものなのだ。
「……神楽耶様、本当に大丈夫ですか?」
「えぇ、大丈夫ですわ。ご心配をおかけして申し訳ありません」
微笑んで紡ぐ言葉は千葉を心配をさせまいとする心遣いが含まれていた。
その言葉は心配だと看病を申し出る千葉に訓練に行った方がいいと言って断ったものでもある。
「では、私は訓練に戻ります。ちゃんと寝ていてください。お腹空いたらそこにお粥作ってあるから食べてください。勿論、食べた後の薬もお飲みください」
「わかっていますわ」
その声が終わるのとドアが閉まる音が一緒に重なり、部屋の中は一気に静寂が訪れていた。
「う〜〜頭ガンガンしますわ〜」
神楽耶は毛布を頭から被る。千葉にはああ言ったが、実は一人では寂しくていけなかった。
「……ふぅ」
小さく息を吐き出した。
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