NOVEL

□優しい世界
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【優しい世界】

マシュマロのように柔らかい感触、砂糖菓子のように甘い味が知らないうちに癖になって、いつしか二人にとって欠かせない数秒となっている。
唇と唇を触れ合わせる時はいってらっしゃい、お帰りなさい、愛している、おはようやおやすみなさいと同じように大事で普通になっている。
彼とのキスの感触は彼が仕事に出かけた後でも消えることは無く、未だにコーネリアの唇に残っていた。
「あ……今、動いたな」
痛くはない。だが、気持ちいいわけでもない。しかし、この感覚が好きであった。
彼と一緒に宿した新しい命がいる自分のお腹をマタニティウェアの上から優しく撫でてコーネリアは微笑んだ。
彼とデートしたこと、キスをしたことや抱締めてもらったこと、それらの事を思い出しているとお腹の子供は必ずと言っていいほどに母親である彼女に対して訴えていた。
パパを独り占めにしないで、なのか、それともパパだけじゃなくて自分も構って欲しいと訴えているのだろうか?
「大丈夫だ、大丈夫」
お腹の中で訴える子供にコーネリアは安心感を与えるような口調で語りかけた。
ふと、ベランダの向こう側にある外の景色に目が移る。窓の外は雲ひとつの無い快晴だった。マンションに続く表通りには、マンションの管理人が忙しなく掃除をしている。
平日の昼間。大人は会社に行き、主婦は家事に精を出して、子供は学校に行っている。お腹の子供の父親であるライは妹のユーフェミアが設立した経済特区『日本』にて書類仕事に追われているだろう。
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